Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 循環器
シンポジウム 循環器1 僧帽弁形成術周術期心エコー

(S195)

機能性僧帽弁逆流に対する形成術のための心エコー

Echocardiographic analysis of mitral valve plasty for functional mitral valve regurgitation

馬原 啓太郎

Keitaro MAHARA

榊原記念病院循環器内科

Department of cardiology, Sakakibara Heart Institute

キーワード :

機能性僧帽弁逆流に対する形成術のための心エコー図検査について論じる前に,機能性僧帽弁逆流に対する手術治療の有効性は依然結論がでていないことに触れる必要がある.
機能性僧帽弁逆流は前負荷の増悪により,すでに存在する左室機能のさらなる低下をもたらし,また,左房圧を上昇させることで肺うっ血を増悪させる.僧帽弁逆流に対する手術介入により生命予後や症状の長期にわたる改善を著明に確認したエビデンスは乏しい.これは,手術による僧帽弁逆流の減少が,虚血性,非虚血性に関わらず根本的な左室機能悪化の進行を抑制できていないことが原因と考えられる.症例数の少ない無作為化試験においては,僧帽弁手術が左室容積の減少や酸素消費量を抑制させたという報告はあるが,より大規模症例に対する検討が必要である.2014年に発表された弁膜症に関するアメリカ心臓協会及びアメリカ心臓病学会(AHA/ACC)のガイドライン1)には慢性機能性高度僧帽弁逆流単独での手術適応は,心不全症状がNYHAⅢからⅣであってもクラスⅡbと積極的には推奨されていない.
冠動脈バイパス術または大動脈弁置換術と同時に行われる際であってもクラスⅡaの適応であるが,血行再建や大動脈弁狭窄による左室負荷軽減により左室機能の改善が見込まれる場合にのみ僧帽弁手術の追加の有効性があると考えられるため,左室機能改善の見込みが正確にわからない限りは僧帽弁手術の追加の有用性の判断は非常に難しい.
虚血性心筋症,拡張型心筋症に代表される左室拡大を原因とするものの他に,心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症の概念が提唱されつつある2).左室機能低下のない,長期慢性心房細動に伴う両心房拡大から引き起こされる僧帽弁逆流である.心房細動に対するカテーテルアブレーションと洞調律維持が逆流の減少につながることからこの概念が始まったが,高齢化社会のなかで慢性心房細動患者の増加により,今後心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する侵襲的治療介入法のより詳細な検討が必要である.
機能性僧帽弁逆流症例においても,形成術を検討するに際しては,器質性の時と同じように逆流の原因を考える必要がある.ただし,機能性の場合は逆流の原因として左室の拡大や左房の拡大,乳頭筋の位置なども注意する必要があり,また,時に僧帽弁弁尖の異常を伴い器質性の要素が混在する場合もある.さらに,原因を検討しても,原因に対して直接介入できないことも多い.機能性僧帽弁逆流に対しての手術適応は基本的には十分な内科的治療もしくは再同期療法などを行っても,心不全入院を繰り返すような症例に限られており,そのような症例では弁置換術も有効な選択肢として考えておく必要がある.
1)Rick A. Nishimura, Catherine M. Otto, Robert O. Bonow, Blase A. Carabello, John P. Erwin, Robert A. Guyton, Patrick T. O’Gara, Carlos E. Ruiz, Nikolaos J. Skubas, Paul Sorajja, Thoralf M. Sundt, James D. Thomas; 2014 AHA/ACC Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation. 2014 Jun 10;129(23):2440-92
2)Zachary M. Gertz, MD, Amresh Raina, MD, Laszlo Saghy, MD, Erica S. Zado, PA-C, David J. Callans, MD, Francis E. Marchlinski, MD, Martin G. Keane, MD, Frank E. Silvestry, MD; Evidence of Atrial Functional Mitral Regurgitation Due to Atrial Fibrillation. J Am Coll Cardiol 2011;58:147481