Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 工学基礎
シンポジウム 工学基礎4 光超音波イメージングの新展開

(S189)

光音響顕微鏡による皮膚状態評価に向けた基礎的検討

Fundamental study toward evaluation of skin condition using photoacoustic microscopy

浪田 健, 村田 勇也, 近藤 健悟, 山川 誠, 椎名 毅

Takeshi NAMITA, Yuya MURATA, Kengo KONDO, Makoto YAMAKAWA, Tsuyoshi SHIINA

1京都大学大学院医学研究科, 2京都大学人間健康科学系(大学院医学研究科)

1Graduate School of Medicine, Kyoto Univesity, 2Faculty Consort of Human Health Sciences, Kyoto University

キーワード :

【背景・目的】
光音響イメージングは,腫瘍により生じる新生血管の構造などの形態情報,酸素飽和度などの機能情報を非侵襲に画像化する新たな画像診断法として,近年実用化に向けて研究が進められている.しかし,光音響イメージングは血管以外にも,脂肪,軟骨,皮膚,線維組織など様々な生体組織への適用が考えられる.光音響信号強度は対象の光吸収係数および熱-音響変換効率に比例し,波長依存性がある.このため,生体組織のイメージング,性状診断に至適な波長を選択する必要がある.
生体組織の光音響特性については様々な報告があるが,血液を除く他の組織の光音響特性については少ない.そこで本研究では,皮膚の状態および疾患の診断を念頭に,皮膚組織の光音響特性を調べることとした.今回,波長400-600 nm付近の可視領域において,光超音波顕微鏡により動物皮膚切片および採取した皮膚組織の光音響計測を行い,その波長依存性を調査するとともに,光音響イメージングによる皮膚の状態評価の可能性を検討した.
【方法・対象】
今回は,超音波の分解能を有する光音響顕微鏡(AR-PAM, acoustic resolution photoacoustic microscopy)を使用した.パルス光(繰り返し周波数100 Hz,照射光量0.5-0.8 mJ/pulse)を脱気水で満たされた水槽を介して試料に照射し,試料からの光音響信号をトランスデューサ(中心周波数50 MHz,焦点距離6.7 mm)により検出した.入射光の一部を試料前に設置したパワーメータで計測し,その値により光音響信号強度を正規化した.計測対象は,皮膚の光老化の程度を反映した,酸化処理日数,試薬濃度の異なる4種類の動物皮膚切片(厚さ50μm,(処理日数,試薬濃度):(1週間,3 mM),(2週間,3 mM),(1週間,10 mM),(2週間,10 mM))および採取した動物皮膚組織とした.
【結果・考察】
まず,波長440-520 nmにおいて,表皮および真皮を含む動物皮膚切片の計測を行った.その結果,計測した波長域においては,光音響信号は波長が長くなるにつれ単調に減少し,いずれの波長においても表皮の方が真皮に比べ信号強度が高くなることが明らかとなった.この結果は,ヒト皮膚の光吸収スペクトルと定性的に合致した.
次に,光老化の程度が異なる試料間で比較を行った.その結果,光老化の進行に伴い信号強度が増大することが明らかとなった.この結果は,光音響イメージングにより光老化の信号度を評価できる可能性を示していると考えられる.
最後に,in vivoでの計測を想定し,波長420-600 nmにおいて採取した動物皮膚の表面からex vivo計測を行った.その結果,皮膚組織においてはこの波長域では少なくとも深さ300μm程度までは信号が検出できることが明らかとなった.また,いずれの波長においても,皮膚切片の結果と同様,表皮の方が真皮に比べ信号強度が高くなることを確認した.さらに,真皮は波長が長くなるにつれ信号強度は単調に減少し,表皮もほぼ同様の傾向となることが明らかとなった.
【結論】
上記解析をとおし,波長400-600 nm付近の可視領域の動物皮膚の光音響特性の波長依存性を明らかにするとともに,光音響イメージングにより皮膚の状態評価が行える可能性を実証した.
今後,より詳細に光音響特性を調査し,皮膚の状態評価方法を確立するとともに,ヒト皮膚あるいはin vivo計測により,光音響イメージングの有用性を検証する必要があると考える.
【謝辞】
本研究の一部は,内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)により,科学技術振興機構を通して委託されたものです.