Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 工学基礎
シンポジウム 工学基礎4 光超音波イメージングの新展開

(S187)

光超音波イメージングによるVascular Health Sciencesの展開

Photoacoustic Imaging Technology to Support Vascular Health Science

椎名 毅

Tsuyoshi SHIINA

京都大学大学院医学研究科人間健康科学系医療画像情報システム学

Human Health Sciences, Graduate School of Medicine, Kyoto University

キーワード :

光超音波イメージングは,ナノ秒幅のパルス光を生体に照射し,その光エネルギーの吸収により生じる超音波を受信することで,光計測のもつ高いコントラストで血流分布や酸素飽和度などの機能計測を,超音波計測の特色である高い空間選択性と到達深度で可能にする新しい生体イメージング法として期待されている.さらに超音波画像との同時計測により.PET-CTのように,超音波による形態情報と光超音波による機能情報を統合したマルチモデリティ診断が可能となる.これにより,がんの新生血管の画像化による早期診断や,脂質性の不安定プラークの検出などの応用が検討されている.
これまで,マウスなどの小動物を対象に,非造影で体内の微細な血管の分布,酸素飽和度などを,高解像かつリアルタイムでの計測が可能になってきている.一方,光超音波の臨床応用においては,高画質と高速化の両立,診断深度の向上,定量性の向上などが検討すべき課題となる.これらは超音波装置でも同様であるが,光超音波の場合は,光源から測定部までの光の伝播特性,測定部位の光の吸収と音波への変換効率,測定部位から受信センサまでの音波の伝搬特性のそれぞれが係ってくる点で,音響特性だけでよい超音波装置に比べてより複雑である.
京都大学は,文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」での京大-キヤノン協働研究プロジェクト(CKプロジェクト)において,2006年から光超音波による乳がん診断装置である光超音波マンモグラフィ(PAM)の研究に取り組んでいる.これまでに臨床用プロト機を開発し,乳がんの症例では,腫瘍に関連する血管の描出が可能なことが示されており,現在では,実用機開発に向けての臨床評価を進めている[1].
また,2014年から,京都大学,東北大学など複数の研究機関と企業が参加し,内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出」において,3D光超音波リアルタイム計測技術のより幅広い医療適用分野の開拓,さらには,医療以外の分野への適用拡大を目的とした取り組みが始まっている[2].これは,がんや,動脈硬化以外にも,リウマチ,関節炎,脳機能低下など,大部分の疾患は血管の異常と関連することから,血管のモニタリングによる,予防・健康管理と早期診断・治療支援を推進する,バスキュラ・ヘルスサイエンスの概念を提唱し,健康長寿社会の実現に貢献することを目指している.ここでは,これらの光超音波の臨床展観を目指した取り組みを紹介する.
【参考文献】
[1]M. Toi et al,“Visualization of tumor-related blood vessels in human breast by photoacoustic imaging system with a hemispherical detector array,”Scientific Reports, 2017.
[2]内閣府ImPACTプログラムホームページ,http://www.jst.go.jp/impact/program/10.html