Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 工学基礎
シンポジウム 工学基礎2 HIFUの臨床応用

(S178)

前立腺癌に対する高密度焦点式超音波療法を用いた局所療法(focal therapy)

Focal therapy of prostate cancer with high-intensity focused ultrasound

小路 直

Sunao SHOJI

東海大学医学部付属八王子病院泌尿器科

Department of Urology, Tokai University Hachioji Hospital

キーワード :

【背景】
癌局所療法は,根治的治療と無治療監視療法の中間に位置する治療概念と考えられ,患者の予後に影響すると考えられる癌病巣を治療する一方,正常組織を可能な限り温存し,癌治療と患者の機能温存を両立することを目的とするものである.高密度焦点式超音波療法(high intensity focused ultrasound,以下HIFU)は,治療領域を自由な形に設定できること,数ミリ単位で治療領域,非治療領域の組織変化の違いを鮮明にして治療することができることから,前立腺癌に対する局所療法に適した治療法として期待されている.我々は,前立腺内部の癌局在診断に有用な核磁気共鳴画像(MRI)および経直腸的超音波画像(TRUS)融合画像を用いた前立腺生検技術を開始,厚生労働省より先進医療の承認を受けた後,その生検により前立腺内部における癌局在診断が行われた前立腺癌に対する局所療法を臨床研究として2016年4月から開始した.
【目的】
われわれの実施しているHIFUを用いた前立腺癌局所療法について報告すること.
【結果】
本臨床研究開始に至るまで,我々はこれまで実施してきたwhole-gland HIFU(前立腺全体を治療)のデータを基に,局所療法における適切な治療法,フォローアップ方法を研究,報告した.さらに,被験者の健康被害に対する補償体制の整備として,保険会社との間で,本研究に対する臨床研究保険を作成した.
対象患者は,血清PSA値が20ng/ml以下で,BioJetを用いたMRI-TRUS融合画像ガイド下生検により癌局在診断が行われた症例とした.治療には,Sonablate500(SonaCare Medical, Indianapolis, IN, USA)を使用し,治療領域は,癌局在診断に基づき,治療計画時のTRUS上で尿道,transition zone,peripheral zoneをメルクマールにした癌局在区域とした.治療による組織変化モニタリングには,TRUS上のポップコーン現象,およびTCM(tissue change monitoring)システムを用いて,治療中に評価し,収束超音波エネルギーを適宜調節した.治療効果は,術後造影MRIおよび血清PSA値の測定により評価し,侵襲性は,術前と治療後の排尿機能および性機能の変化を用いて評価した.対象は15症例.年齢中央値は67歳,PSA中央値は7.8ng/ml,Gleason scoreは3+3が9例,3+4が4例,4+3が2例,低リスク群は9例,中リスク群が6例であった.治療時間中央値は32分間であった.全ての治療区域は,造影MRIにより血流消失が確認され,血流の残存は認められなかった.13例(87%)が,24時間以内にFoleyカテーテルが抜去可能であった.治療後3カ月目(n=10)の血清PSA値中央値は1.2ng/mlであった.治療前および2週間後において,IPSS(p=0.6),QOL index(p=0.6),OABSS(p=0.5),最大尿流率(p=0.4),残尿量(p=0.5),およびIIEF-5(p=0.4)に有意差は認められなかった.合併症として,尿路感染症(Grade 2)が2例(13%)で認められたが,尿失禁は認められなかった.
【結語】
限局性前立腺癌に対するHIFUを用いた局所療法は,標的を正確に,有効に,低侵襲に治療できる可能性が示唆され,HIFUは局所療法における有望な治療方法であると考えられた.