Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 工学基礎
シンポジウム 工学基礎1 定量診断:何をみている?何が測れる?

(S175)

超音波法による骨計測

Ultrasound evaluation of bone

松川 真美

Mami MATSUKAWA

同志社大学理工学部電気工学科

Faculty of Science and Engineering, Doshisha University

キーワード :

【QUSの現状】
日本では超音波骨密度測定(定量的超音波測定法:Quantitative Ultrasound(QUS))が健康保険診療で認められており,世界でも先進的な状況にある.超音波法は被曝がないために妊婦や子供も含めて繰り返し測定でき,骨粗鬆症診断のスクリーニングとして,そして骨に関する関心の保持にも重要な役割を果たしている.ただし残念ながら,原発性骨粗鬆症については,2012年の診断基準改定においてもQUSは採用されなかった.この一因として,踵骨を測定する現在の臨床用QUS装置ではX線による骨密度測定と比較して測定値のばらつきが大きいことがあげられる[1].しかし,その一方で,QUSは骨ミネラル量を測定するX線法とは独立して,骨折の判別と骨折リスクの評価ができる点も臨床的に認知されている.
【標準化の動向】
現在主流である踵骨用QUS装置は機種により測定部位や,超音波の周波数帯域,送波器や受波器の特性などが少しずつ異なる.従って,同一被験者を測定しても,得られる超音波伝搬速度(Speed Of Sound: SOS)や広帯域超音波減衰(Broadband Ultrasound Attenuation: BUA)といったQUSパラメータの値が機種ごとに異なる問題が生じ,臨床の現場で混乱を招いている.このような状況の下,日本骨粗鬆症学会は2007年にQUS標準化委員会を発足し,QUSの統一や標準化に関する検討を行った.具体的には各機種で同一の被験者232名を測定し,各測定値の相関を検討した.そして6機種の結果から基準SOS値(s-SOS)を[2].4機種の結果から基準BUA値(s-BUA)を提案しており,現在最終報告の準備中である.
【超音波による骨評価の今後】
QUSパラメータは超音波の伝搬速度,伝搬減衰を反映し,骨の構造や物性に依存して変化する.したがって,超音波法はX線法で測定される骨中のミネラル量を超えた「骨質」が評価できる可能性が高い.NIHは骨中のマイクロクラックや弾性,骨代謝回転などを総合的に反映したものとして,この「骨質」評価の重要性を指摘している.実際,骨ミネラル量が十分でも骨折が起こる症例も見られており,糖尿病などの内分泌疾患に伴う骨中コラーゲンの変性が骨質に及ぼす影響も注目されている.このような観点のもと,ヨーロッパを中心に,ミクロからマクロにわたる骨の超音波伝搬特性を総合的に評価して骨質を評価しようとする野心的試みも始められている[3].一方では,10代の骨折増加や骨量低下も危惧されており,被曝の心配のない超音波法で成長期の骨の発達の評価基準値を作成する新しい取り組みも検討されている.超音波法は骨粗鬆症診断を超えて,今後も様々な骨の臨床・基礎研究で期待されているといえよう.
【参考文献】
[1]日本骨粗鬆症学会,日本骨代謝学会,骨粗鬆症財団,”骨訴訟証の予防と治療ガイドライン2015年度版”,ライフサイエンス出版 2015
[2]日本骨粗鬆症学会,QUS標準化委員会,“QUSの標準化について,”Osteoporosis Japan, 17,別刷(2009).
[3]P.Laugier and G.Haat ed., Bone Quantitative Ultrasound, Springer 2011.