Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 工学基礎
シンポジウム 工学基礎1 定量診断:何をみている?何が測れる?

(S175)

Shear waveで軟組織の何をどう測るのか?

What and how can we measure for tissue characterization by using shear wave propagation ?

椎名 毅

Tsuyoshi SHIINA

京都大学大学院医学研究科人間健康科学系医療画像情報システム学

Human Health Sciences, Kyoto University, Graduate School of Medicine

キーワード :

【Shear waveによる組織の硬さの評価】
超音波エラストグラフィは,組織の硬さを可視化することで,形態変化には現れにくい質的な組織病変を捉え,早期診断や良悪性の鑑別診断に有用な画像診断法として開発され,現在では乳がん診断や肝線維化の診断等に用いられている.さらにHIFUや化学療法などの治療における効果判定への活用も試みられている.この超音波エラストグラフィの手法の1つであるshear wave elastographyは,体内にshear wave(剪断波,横波)を発生させ,その伝搬速度や,一定の条件下で弾性率を得るため定量的である点が特徴とされている.一方で,shear waveの生体内の伝搬特性を考えると,現在のshear wave elastographyの手法における課題とともに,shear waveによりさらに多くの軟組織に関する診断情報が得られる可能性が見えてくる.
【shear waveの組織内の伝搬特性と速度推定法】
軟組織でのshear waveの速度は1~10m/sと範囲が大きく,縦波の速度が1500m/s前後である点と異なる.これはshear waveが組織境界で大きく屈折し,また反射係数も縦波に比べて大きな値を取ることを意味する.現在の,shear wave elastographyの装置では,通常TOF(time-of-flight)法を用いている.これは,波の伝搬方向を仮定し,離れた2点間の距離と波の伝搬時間とから速度csを求め,密度ρとから弾性率E≒3ρcs2を得ている.しかし,shear waveの反射や屈折などによる影響で測定誤差やアーチファクトが生じやすくなる.例えば,乳がん腫瘍の多くは周囲組織に比較し,硬くなることから音速が大きく変化する部位であり,また腫瘤内部も不均一な構造であることが多いため,アーチファクトが強く現れる可能性が高い.このため,我々は,shear waveの伝搬方向を仮定せず,様々な方向に伝搬するshear waveを仮想的に集束させることで速度分布を可視化する手法を提案している[1].
また,shear waveは高周波での減衰が大きいため,臨床で使えるのは1kHz程度までである.例えば200Hzの場合,波長は5~50mmとなり,縦波に比べかなり長波長となる.TOF法は,一様で波長に比較し充分に広い媒質内をshear waveが伝搬する際にはよくあてはまるが,組織の厚みが波長に近くなると,薄板を伝わるモードとなり各周波数成分により異なる速度で伝搬するいわゆる分散特性を生じるため,通常のTOF法では誤差が大きくなる.この場合の方策として,ガイド波(guided waves)理論に基づいた速度推定法が考えられる[2].
【Shear wave速度の周波数依存性の活用】
Shear wave elastographyのTOF法では,通常2点間の波形の相関等から伝搬時間を求めるため,shear waveの波束の移動(群速度)を見ている.しかし各周波数成分ごとの速度(位相速度)を見ることで,より細かな組織の特性を評価できる可能性がある.すなわち,一般に波の周波数が高周波になるほど,弾性だけでなく粘性の影響が現れる.最も単純な組織モデルであるVoigtモデルの場合でも変形の速度に比例した抗力が生じ見かけ上の弾性が大きくなる.このような,粘性の変化は脂肪性の肝炎で増加するという計測結果から NASHなどの診断適用の可能性が研究されている.
[1]Kitazaki et al, JJAP, 55,07KF10,2016.
[2]J.Jang et al., JJAP, 55,07KF08,2016.