Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 工学基礎
シンポジウム 工学基礎1 定量診断:何をみている?何が測れる?

(S174)

電気的興奮の心臓壁内伝播の可視化

Visualization of propagation of electrical excitation along the heart wall

金井 浩, 松野 雄也

Hiroshi KANAI, Yuya MATSUNO

1東北大学工学研究科電子工学専攻, 2東北大学医工学研究科医工学専攻

1Department of Electronics, Tohoku University, 2Department of Biomedical Engineering, Tohoku University

キーワード :

【はじめに】
我々は通常の超音波エコー装置を用いて,反射超音波の位相を巧みに用い,心臓の各部分の微小振動の計測できる手法を開発した.この計測方法を心筋に適用し,「収縮期末期(心II音発生時),大動脈弁閉鎖に伴って壁上に振動(数十Hz,数mの微小振幅)が発生し,それが壁に沿って伝播する(機械的)現象」と「心電図Q波から心I音継続時間に,心基部・心尖部間を速度成分が複数伝播する現象」を見出した(Ultrasound Med Biol 2009;35:382).特に後者は,心I音に対応する機械的振動の伝播だけでなく,心筋を電気的興奮が伝播する際に微小振動が発生する現象,すなわち心臓収縮を引き起こす興奮が心臓壁を伝播する様子を可視化でき,心筋細胞の電気的ポテンシャルの伝導障害の非侵襲検出の可能性を示している.
【原理】
位相差トラッキング法(IEEE 1996;UFFC-43:791)を適用し,さらに超音波ビームを粗く走査し,壁内の超音波ビーム上に設定した約10,000個の点に関し約500Hzのフレームレートで速度波形を同時計測し,電気的興奮/心臓弁の閉鎖で生じたパルス状波形を検出する.この波形の20-40Hz成分の瞬時位相を内挿した空間分布を時系列的に並べ,中隔壁に沿った波の伝播を可視化する.
【in vivo実験結果】
健常被験者の心室中隔に適用し,心電Q波時に,プルキンエ線維が心筋と接する心室中隔から始まり,心尖・基部両方向に約4m/sで伝播する成分が確認された(電気的興奮の伝播と対応).心電R波時からは別の波形が心基部から心尖部へ伝播している(僧帽弁閉鎖に伴う横波伝播と対応).局所の厚み変化でみると,心電図Q波での速度分布の変化開始点から収縮が開始しているが,心電図S波から心I音の継続時間には収縮が一時停止し,その後,収縮して駆出期を形成している.収縮は深さ方向に均一ではなく,通常のMモードの低輝度部分に対応し収縮の大なる部分がある.
【虚血させた開胸ブタ心臓の結果】
開胸ブタ心臓の心室中隔を対象とし,電気的興奮の伝播に伴い心筋が収縮することで生じる微小速度を心筋の様々な位置で波形として計測した.さらに,相互相関法を用いて心筋収縮応答の遅延時間分布を作成し,収縮伝播特性の定量的評価を行った.
まず,正中開胸されたブタの心室中隔からのエコーを計測し,次に左室前下行枝(LAD)を指で圧迫駆血することで心室中隔を虚血状態にして5秒後に再度計測を行った.このように2段階の計測を行い,正常状態と虚血状態において心筋収縮応答伝播の可視化,虚血後の伝播速度の低下を評価した.
その結果,(1)心室中隔における遅延時間は正常状態,虚血状態ともに心基部側から心尖部側に向かうにつれ増加しており,心筋の収縮応答が心基部側から心尖部側へ伝播している様子が確認された.また,(2)心基部側と心尖部側の遅延時間の差は正常状態に比べて虚血部の方が大きく,虚血による伝播速度の低下が見られた.(3)正常状態では収縮伝播速度は3.6m/sと推定されたが,冠動脈の5秒間駆血により伝播速度が1.9m/sとなり,数秒という時間の間に,正常状態の約半分まで低下することが確認された.
【あとがき】
CT,MRI,エコー装置は心臓断層像や収縮拡張に伴う拍動を3次元で可視化できるが,空間分解能(数百m)や時間分解能(数十ms)は,肉眼で把握できる程度に止まる.この報告では,時間分解能を2ms,変位推定の空間分解能を1mまで向上させ,従来の診断装置にはない計測を可能にした.心筋梗塞による心筋の虚血部分・障害部分・壊死部分は,各々活動電位の脱分極・再分極の様子が異なるため,この波動伝播は,心筋の興奮伝導の空間的評価や心筋障害の診断に利用できる可能性がある.