Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般ポスター
産婦人科 胎児心臓・血管

(S843)

出生直後の外科的介入により救命できた卵円孔狭小化を合併した左心低形成症候群の二例

Immediate surgical creation of an atrial communication after birth in hypoplastic left heart syndrome with restrictive atrial septum:two case reports

太崎 友紀子, 北代 祐三, 住江 正大

Yukiko TAZAKI, Yuzo KITADAI, Masahiro SUMIE

福岡市立こども病院産科

Department of Obstetrics, Fukuoka Children’s Hospital

キーワード :

左心低形成症候群(Hypoplastic left heart syndrome :HLHS)は上行大動脈から大動脈弓にかけての低形成を伴い,大動脈弁または僧房弁の閉鎖または重度の狭窄を伴う多彩な病態の症候群である.数回にわたる外科的治療を要し,最終的にFontan型根治術を目指す.出生後の循環動態において卵円孔と動脈管の開存が必須であるが,約6〜22%に卵円孔狭小化の合併が報告されている.卵円孔狭小化を合併したHLHS症例は出生直後に著明なチアノーゼを認め,バルーンカテーテルによる心房中隔裂開術や開胸による心房中隔欠損拡大術などの積極的な介入を必要とする.今回我々は出生前に卵円孔狭小化が疑われ,出生直後の外科的介入により救命できた左心低形成症候群の二症例を経験したので報告する.
【症例1】
33歳1経妊1経産,妊娠27週1日に胎児心形態異常を指摘され,妊娠32週1日に周産期管理目的で当センターを紹介初診した.超音波断層法でHLHSの診断であり,心房中隔は肥厚しており,明らかな卵円孔開存を認めなかった.また肺静脈は拡張し,心房収縮期に逆行性血流を認めた.出生後早期に心房中隔欠損拡大術を必要とする可能性が高いと判断し,心臓外科待機下に帝王切開分娩の方針とした.妊娠37週0日に選択的帝王切開術を施行した.体重は計測不能,男児,Apgarスコアは4点/6点(1分値/5分値)であった.出生直後に弱い啼泣を認めたが,チアノーゼ著明であった.超音波断層法で胎児診断と同様にHLHS・卵円孔狭小化の診断であったため,緊急手術の適応と判断し心房中隔欠損拡大術を行った.術後の経過は良好で日齢100にNorwood術を施行されたが,1歳10カ月で心肺停止となり死亡した.
【症例2】
25歳未経妊未経産,妊娠30週のスクリーニングで胎児心形態異常を指摘され,妊娠32週0日に周産期管理目的で当センターを紹介初診となった.超音波断層法でHLHSの診断であり,心房中隔は肥厚しており右房側に凸であった.卵円孔を介した左房から右房への血流を認めたが,血流はモザイク所見であり卵円孔狭小化が強く疑われた.また肺静脈は拡張し,心房収縮期に逆行性血流を認めた.心臓外科待機下に妊娠38週6日に選択的帝王切開術を施行した.児は2682gの女児でApgarスコアは8点/8点(1分値/5分値)であった.出生直後に啼泣を認めたが,超音波断層法で胎児診断と同様にHLHS・卵円孔狭小化の診断であった.緊急手術の適応と判断し,心房中隔欠損拡大術を行った.術後の経過は良好で現在日齢50であり,引き続き加療予定である.
左心低形成症候群で卵円孔狭小化を疑われた症例においては,バルーンカテーテルによる心房中隔裂開術や開胸による心房中隔欠損拡大術の体制を十分に整えて分娩管理を行うことが望ましい.しかしながらその一方で,出生後に積極的な介入を行っても長期的予後の改善は認めないとの報告もあり,胎児治療を含めた今後の更なる検討が必要である.