Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
運動器 運動器①

(S747)

超音波診断装置Real-time Tissue Elastographyを用いた腹横筋・多裂筋筋硬度の測定

Evaluation of transversus abdominis and multifidus hardness with an Ultrasonography Real-time Tissue Elastography

村上 幸士

Takashi MURAKAMI

杏林大学保健学部理学療法学科

School of Health Sciences, Kyorin University

キーワード :

【はじめに,目的】
近年,臨床場面やスポーツ分野において体幹の安定化を目的とした体幹深部筋群のトレーニングやそのメカニズムを解明するための研究が注目されている.その中で,リアルタイムに深部組織を確認できる超音波診断装置を用いた腹横筋・多裂筋の筋厚測定や腹横筋・胸腰筋膜移行部の滑走(胸腰筋膜の変化)測定を行う研究などが報告されている.今回使用したReal-time Tissue Elastographyは,組織弾性をリアルタイムに映像化する撮像法であり,乳腺などの診断に使用され,筋硬度の測定にも使用され始めている.しかし,Real-time Tissue Elastographyを用いた個々の体幹筋に対する測定やその信頼性は明らかではない.本研究の目的は,健常者における腹横筋・多裂筋の筋厚と筋硬度を安静時と収縮時において比較し,その変化を明らかにすることとした.
【方法】
研究に対して,同意を得られた健常男性25名(21.9±2.2歳)を対象とした.超音波診断装置(日立メディコ社製HI VISION Preirus)を用いた撮像は,腹横筋・多裂筋にマーキングを行い,画像での確認をもとに最終的なプローブ(14-6MHz,リニア形EUP-L65)位置を決定した.また,プローブと皮膚との間に,音響カプラーを挿入し,撮像肢位は腹臥位および背臥位とした.この時,腹横筋・多裂筋の収縮は,口頭指示および対象者からも確認できる超音波画像による視覚的フィードバックを用いて行った.なお,すべての測定は左側および右側から行い,無作為に実施した.安静時および収縮時の腹横筋・多裂筋筋厚は,浅層の筋膜と深層の筋膜をそれぞれ垂直に結んだ線上の距離を測定した.さらに,Real-time Tissue Elastographyを用いて,腹横筋・多裂筋の筋硬度を測定した.測定は,Strain Ratio計測を用い,一定の硬さである音響カプラーを基準とし,安静時と収縮時の腹横筋・多裂筋筋硬度を算出した.この時,プローブの圧は,Strain graphを用いて一定にした.これらの測定結果に対し,t検定を用いて,安静時と収縮時を比較した.統計処理はSPSS for Windowsを用い,有意水準は5%とした.
【結果】
腹横筋・多裂筋の筋厚は,左側,右側ともに,安静時と比較して,収縮時は有意に厚さが増加していた.また,腹横筋・多裂筋の筋硬度は,左側,右側ともに,安静時と比較して,収縮時は有意に硬さが増加していた.
【考察】
腹横筋の収縮により,腹横筋および筋膜で構成される腹部における深部の内径が小さくなることと同時に,多裂筋が収縮することで腹腔内圧が高まると報告されている.腹腔内圧が高まるためには,収縮した腹横筋・多裂筋自体の筋硬度の増加も必要であると考え,測定を行った.また,骨格筋は収縮することで安静時と比較して筋硬度は増加すると考えられるが,深部に位置する腹横筋・多裂筋でも同様に増加するかは不明であった.今回,超音波診断装置Real-time Tissue Elastographyを用いることで,従来測定が難しかった深部に位置する筋である腹横筋・多裂筋の筋硬度を測定することが可能であった.本研究の結果,収縮することで腹横筋・多裂筋の筋厚増加と共に,腹横筋・多裂筋の筋硬度増加を確認することができた.よって,深部に位置し,腹部を横断的に走行している腹横筋と腰部を縦断的に走行している多裂筋も他の骨格筋と同様に収縮時は安静時と比較して,筋の硬さが増加することが明らかになった.これは,腹腔内圧の向上のために必要な腹横筋・多裂筋の筋収縮の確認をする時に,筋厚に加え,筋硬度まで測定することでより筋活動を明らかにすることができた.今後,腹横筋・多裂筋の筋厚の測定を行う場合,筋硬度も合わせて測定する有用性が示された.