Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
産婦人科 母体・分娩②

(S725)

経肛門超音波走査法を用いた分娩後肛門機能障害の評価

Assessment of postpartum anal dysfunction with endanal ultrasonography

門岡 みずほ1, 高橋 知子2, 鈴木 真1

Mizuho KADOOKA1, Tomoko TAKAHASHI2, Makoto SUZUKI1

1亀田総合病院産婦人科, 2亀田総合病院消化器外科

1Obstetrics and Gynecology, Kameda Medical Center, 2Gastroenterological Surgery, Kameda Medical Center

キーワード :

【目的】
分娩時に生じる肛門周囲,骨盤底筋群の損傷は,排便困難,便失禁,尿失禁等をまねき,著しいQOLの低下や精神的苦痛をもたらすことがある.その予防には,ハイリスク群を把握し,分娩直後に裂傷の程度を適切に評価し修復することが必須であるが,確立された方法はない.そこで,分娩時に産道裂傷が生じ,産後に排便障害を認める症例を対象に,新たな方法として,消化器外科と連携し,経肛門超音波走査法を用いた肛門括約筋損傷の評価を行ったので,報告する.
【対象と方法】
分娩時にⅡ度会陰裂傷を認め,排便障害を起こした2例を対象とし,B&K Medical社製flexFocus1202 Transducer 2052(Anorectal3D 16-6MHz)を使用して骨盤底筋群の評価を行った.
このトランスデューサはラジアル型で360度回転し,周辺臓器が同心円状に描出される特徴があるため,肛門内に挿入して肛門管内腔から外側へと肛門括約筋を連続して描出し,肛門括約筋断裂の部位と程度を詳細に確認した.
また,三次元で画像取り込みを行うことができるため,検査後に画像を再構築し,短時間でより詳細な損傷部位・程度の評価を行うことができた.
【症例】
症例1:42歳1回経産婦(前回分娩は19年前).妊娠経過良好.妊娠39週,無痛分娩目的に誘発分娩を行い,分娩第2期遷延のため,右正中側会陰切開し鉗子分娩となった.腟壁裂傷,会陰切開部のⅡ度裂傷を縫合処置された.産褥1日目以降排便がなく,4日目に排便困難の訴えあり,直腸指診にて直腸内の便塊多量で,肛門括約筋収縮力低下を認めた.消化器外科へ紹介し,経肛門超音波検査にて中位レベルの外肛門括約筋11時方向に50%断裂を認め,超音波評価では会陰裂傷Ⅲ度と判断された.骨盤底筋訓練に加えて,肛門筋電計を用いたバイオフィードバック療法による肛門括約筋トレーニングを開始し,産後3ヶ月には便失禁は軽快.現在尿失禁を認め泌尿器科紹介,リハビリ継続中である.
症例2:43歳初産婦.妊娠経過良好.帰省分娩にて,妊娠40週,陣痛発来で入院,その後続発性微弱陣痛で分娩促進,分娩第2期遷延にて,右正中側会陰切開し吸引分娩となった.腟壁裂傷,会陰切開部のⅡ度裂傷を縫合処置された.産褥3日目頃から肛門に力が入らない,排ガスを抑えられないとの訴えあり.直腸診にて肛門括約筋収縮力低下あり,便失禁も出現.消化器外科紹介し,経肛門超音波検査にて,肛門周囲組織の浮腫性変化は認めるものの,内外肛門括約筋の断裂は明らかでなく,肛門括約筋不全の原因としては,陰部神経の損傷や恥骨直腸筋の損傷が疑われた.肛門括約筋トレーニングを行い便失禁は軽快したが,便意切迫感があるため,現在もリハビリ継続中である.
本2例はともに分娩直後の直視下の評価では肛門括約筋損傷は明らかでなく,Ⅱ度会陰裂傷と判断されたが,産後の排便障害をきたし,症例1においては経肛門超音波検査にて新たに肛門括約筋損傷が指摘され,Ⅲ度会陰裂傷の診断となった.
【結語】
外肛門括約筋の部分断裂を伴うⅢ度会陰裂傷を肉眼的に正確に診断することは困難である可能性が示唆され,肛門括約筋損傷が疑われる症例では,経肛門超音波走査法による肛門括約筋損傷評価が有用であると考えた.早期に評価が行われることにより,適切な裂傷縫合方法の検討や,早期からのリハビリ介入ができ,排便障害のみならず,将来の骨盤臓器脱の発生予防の可能性も示唆された.