Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
頭頸部

(S700)

構音障害治療での舌超音波画像の有用性について−患者と言語聴覚士へのアンケート調査

The usability of ultrasound tongue imaging in treating articulation disorders: patients and speech therapists questionnaire surveys

森 紀美江1, 武井 良子1, 山田 紘子1, 長谷川 和子1, 2, 山下 夕香里1, 3, 高橋 浩二1

Kimie MORI1, Yoshiko TAKEI1, Hiroko YAMADA1, Kazuko HASEGAWA1, 2, Yukari YAMASHITA1, 3, Koji TAKAHASHI1

1昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科, 2誠愛リハビリテーション病院リハビリテーション部言語聴覚療法課, 3帝京平成大学健康メディカル学部言語聴覚学科

1Department of Oral Rehabilitation, Showa University Dental Hospital, 2Department of Speech, Language and Hearing Sciences, Faculty of Rehabilitation, Seiai Rehabilitation Hospital, 3Department of Speech, Language and Hearing Sciences, Faculty of Medical Science for Health, Teikyo Heisei University

キーワード :

【目的】
われわれはこれまで簡便でリアルタイムに観察が可能な超音波診断装置を用いて健常人および構音障害患者の舌運動様式を検討してきた.また,構音障害の治療に対しては可視化情報によるフィードバックが有用であることが示されている.そこで今回は舌超音波画像が,構音障害患者にとって自身の誤った舌運動を理解し,正しい構音動作を習得する手段として有用であるか,構音治療を担当する言語聴覚士(以下,ST)にとって舌運動を客観的に診断し,視覚的構音訓練に用いる情報として有用であるかを検討するために,アンケート調査を行った.
【対象】
患者に対する調査;2012年3月から2015年11月までに構音障害を主訴として当科を受診し,舌運動についての超音波検査に同意した30例(男性19例,女性11例,15歳〜39歳,平均25.8歳,機能性構音障害28例,器質性構音障害2例).STに対する調査;構音障害の治療を行っている病院・施設勤務のST27名.
【方法】
患者に対する調査;構音治療開始時(超音波検査前)(Ⅰ期),初回超音波検査後(Ⅱ期),構音不安定期(意識下で正常構音が可能な時期)(Ⅲ期),構音治療終了時(Ⅳ期)の4時期に,患者自身の会話時の問題点,当科受診前の治療経験,舌超音波画像の理解度や治療への有用性等についてアンケート調査を行った.STに対する調査;1.構音障害や治療について記述した教科書,2.構音障害患者の構音時顔面ビデオ画像,3.構音障害患者の舌の口蓋への接触を表示するエレクトロパラトグラフィ(以下,EPG),4.構音障害患者の構音時舌超音波画像,を示した後,構音障害の実態が理解しやすい情報と患者への説明に用いやすい情報についてアンケート調査を行った.
【結果】
患者に対する調査;Ⅰ期では自身の構音について,自身が構音しにくい音を示した患者や会話の相手が自身の構音を聞き取れないと記述した患者がみられた.また,当科受診以前の構音治療の経験は30例中14例で,インターネット情報や構音に関する書物を用いて独力で改善を試みていた.Ⅱ期では,超音波検査終了時にわれわれが舌超音波画像を説明したが,30例中29例で自身の構音時の誤った舌運動を理解することが可能であり,構音治療にも役立つと感じていた.Ⅳ期では,アンケートを行った患者は7例だったが,全ての患者で舌超音波画像は視覚的に舌運動を確認できることから治療に役立つと回答した.STに対する調査;構音障害の理解および患者への説明として最も有用な情報はEPGだった.舌超音波画像は舌運動について理解しやすいが,見慣れない画像のため患者への説明に用いることは困難であるという回答が多かった.
【結論と考察】
今回,舌超音波画像は舌運動を理解するための可視化情報として有用であること,構音治療に舌超音波画像を用いる場合には画像を正しく理解することが必要であることが示された.超音波診断装置は多くの病院・施設に設置されているが,構音障害の舌運動の観察にはほとんど利用されていない.そのためわれわれは,今後も構音治療に携わる医療者に対する舌超音波検査の普及や理解しやすい舌超音波画像の提供を考えている.また,Ⅳ期のアンケート調査を行えた患者は30例中7例だったが,継続治療中の患者を除き,短期間では改善が難しい治療困難な構音障害では通院に負担がかかるため治療終了に至らない患者もみられた.このような治療が長期にわたる構音障害患者の治療については,医療施設への通院治療だけでなく,患者が自己学習を行えるシステムが必要であり,普及させたいと考えている.