Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
甲状腺 甲状腺・皮膚

(S695)

甲状腺結節におけるShear Wave Elastographyを用いた組織弾性評価の有用性とその限界

Usefulness of tissue elasticity evaluation of Shear Wave Elastography in a thyroid nodule and its limits

南方 瑞穂, 日高 尚子, 重田 真幸, 大黒 晴美, 貴田岡 正史

Mizuho MINAKATA, Naoko HIDAKA, Masayuki SHIGETA, Harumi DAIKOKU, Masahumi KITAOKA

公立昭和病院内分泌・代謝内科

Endocrinology and Metabolism, Shouwa General Hospital

キーワード :

【背景】
甲状腺結節の良悪性鑑別に超音波による組織弾性評価がstrain elastographyを中心に臨床応用されている.しかしstrain elastographyは定量性に問題が多いため,良悪性の鑑別診断には主としてパターン分類が用いられているのが現状である.一方,プローブからのAcoustic Compression(push pulse)で生じる剪断波の伝播速度を測定して画像を構築するShear Wave Elastographyは,剪断波伝播速度から弾性率を算定することで硬さの定量評価が可能である.しかし臨床評価に耐えるデータ取得には当然のことながら整った剪断派を生じさせることが大前提となる.其の為にはpush pulseによる均一な組織のmicro displacementの生成が重要であるが,前頸部に存在する甲状腺を対象とする場合には至適条件を満たした部位を慎重に設定する必要がある.また伝播の過程についても組織特性とその構造に依存して剪断波の減衰,屈折,反射等が生じる為,再現性の良いデータ取得には課題が多い.そこで今回,preliminarilyに剪断波伝播過程の検証を行いながらShear Wave Elastographyで甲状腺結節を評価し,弾性率と穿刺吸引細胞診所見との比較検討を行った.
【方法】
甲状腺結節23例に対して,東芝社製Aplio 500を用いてShear Wave Elastographyにて弾性率を測定し,全例で穿刺吸引細胞診を施行して,弾性率とClass分類結果との関連について評価した.統計学的解析にはt検定を用いた.また,剪断波の伝播を可視化する機能であるPropagationについてその有用性を検討した.
【結果】
23例の弾性率の平均値は38.0kPaであった.23例中1例が髄様癌,6例がClassⅣもしくはClassⅤで乳頭癌と診断され,16例が腺腫様甲状腺腫もしくは濾胞腺腫と診断された.髄様癌1例と乳頭癌1例は手術施行されいずれも術後病理診断は術前診断と合致し,乳頭癌5例は手術待機中である.弾性率の平均値は悪性群で54.2kPa,良性群で30.9kPa(p値=0.11)で,悪性群で高い傾向が認められたが有意差は得られなかった.石灰化など観察領域が不均一な構造をもつ症例では弾性率の再現性は低く,剪断波の反射や屈折が測定値に影響を及ぼすことが考えられた.またPropagation機能を利用すると,得られた弾性率が適切な剪断波の生成と伝播に基づく計測値であるか否かをある程度検証可能であり,組織弾性の測定結果の信頼性を評価することにつながった.その結果,Propagationによる評価に基づいて病変部に対するROIの設定等を工夫することで効率的なデータ取得が容易となり再現性が向上した.
【結論】
今回のpreliminarilyな検討では悪性群で弾性率が高い傾向にあったが症例数の少ないこともあり統計学的に有意差は得られなかった.しかし甲状腺結節の良悪性診断の一助としてShear Wave Elastographyは臨床的に有用であると考えられた.今後,組織診断との対比を行いつつ症例数を増やしさらに検討を重ねる必要性が示唆された.また,Propagation機能を用いることで測定値の正確性と再現性の改善が期待できると考えられた.ただし,機器メーカー間でpush pulseの生成方式や計測設定が異なり,剪断波の伝播が関心領域を中心とした組織構造の影響を大きく受ける点から,弾性率の値の解釈には慎重な配慮が必要であると思われた.