Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
消化器 エラストグラフィ・他

(S643)

超音波エラストグラフィにおける関心領域の深度設定は剪断波速度測定値に影響する

Depth setting of region of interest influences on shear wave velocity values in liver stiffness measurements using acoustic radiation force impulse

松下 裕1, 新垣 直樹2, 森 良幸2, 井上 泉2, 瀧口 良重1, 大石 博晃1, 森畠 康策2, 前北 隆雄2, 井口 幹崇2, 玉井 秀幸2

Yu MATSUSHITA1, Naoki SHINGAKI2, Yoshiyuki MORI2, Izumi INOUE2, Yoshie TAKIGUCHI1, Hiroaki OOISHI1, Kosaku MORIBATA2, Takao MAEKITA2, Mikitaka IGUCHI2, Hideyuki TAMAI2

1和歌山県立医科大学附属病院中央検査部, 2和歌山県立医科大学第二内科

1Central Laboratory, Wakayama Medical University Hospital, 2The Second Department of Internal Medicine, Wakayama Medical University

キーワード :

【背景】
Acoustic radiation force impulse(ARFI)により発生した剪断弾性波の速度(shear wave velocity:Vs)は,弾性体の硬度と相関するため,肝線維化を定量的に評価可能である.超音波の特性上,深部減衰の問題があり,Region of interest(ROI)の設定は,肝の深部よりも浅部に設定すべきであると考えられ,日本超音波医学会のガイドラインでは,Virtual Touch Quantification(VTQ)を使用する際,安定した収束超音波を送信させるためのコツとして,ROIは肝表面から1-2cm下げるとしているが,最適な深度設定についての根拠は未だない.
【目的】
肝の浅部領域におけるROI深度設定のVs値に及ぼす影響を検討する.
【対象と方法】
当院で2014年8月から2015年3月まで腹部超音波検査を施行した慢性肝疾患患者289例を対象とした.使用超音波装置は持田シーメンス社Acuson S2000.右肋間走査にて,肝右葉前区域の肝表から1cmと3cmの深度にROIを設定し,VTQを用いて,それぞれのVs値(Vs10,Vs30)を10回測定,その平均値を算出した.全症例,肥満群(BMI25以上)と非肥満群(BMI25未満),体表から肝表までの距離20mm以上の群(20mm≦群)と20mm未満(20mm>群)の群,それぞれの群においてVs10値とVs30値を比較した.臨床的に,肝硬変に特徴的な形態変化があり,門脈圧亢進に基づく脾腫または側副血行路を伴うものを肝硬変と診断し,Vs10値,Vs30値を用いたそれぞれの肝硬変診断能をArea under the receiver operating characteristic curve(AUROC)値で比較した.
【結果】
平均年齢60.5±13.7歳.男性126例,女性163例.B型肝炎ウイルス(HBV)感染/C型肝炎ウイルス(HCV)感染/HBV+HCV重複感染/肝炎ウイルス感染なし,それぞれ49例/167例/1例/72例,肝硬変62例.平均Body mass index(BMI)22.8±3.8.全例における平均Vs10値は1.74±0.93 m/s,平均Vs30値は1.32±0.47 m/s,肥満群における平均Vs10値は2.08±1.03 m/s,平均Vs30値は1.43±0.57 m/s,非肥満群における平均Vs10値は1.64±0.87 m/s,平均Vs30値は1.29±0.43 m/s,体表から肝表までの距離20mm≦群における平均Vs10値は2.17±1.08 m/s,平均Vs30値は1.37±0.57 m/s,体表から肝表までの距離20mm>群における平均Vs10値は1.64±0.85 m/s,平均Vs30値は1.31±0.44 m/sであり,いずれの群でもVs10値の方が有意に高値(p<0.001)を示した.Vs10値とVs30値を用いた肝硬変診断のAUROC値は,それぞれ0.758と0.878であり,Vs30値の方が有意に肝硬変診断能に優れていた(p=0.0001).
【結論】
肥満や,体表から肝表までの距離に関わらず,肝表から1cmのROI深度設定では,3cmの深度設定よりも有意に高いVs値を示し,肝硬変診断能が低下する.一方,肝表から3cmのROI深度設定における肝硬変診断能は,従来の報告と同等に優れており,妥当なROI設定深度と考えられる.以上より,肝表から1cmにROIを設定すべきではない.