Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
消化器 肝:症例②

(S639)

転移性肝腫瘍との鑑別を要したMTX関連リンパ増殖性疾患の1例

A case of methotrexate-associated lymphoproliferative disorder differentially diagnosed from metastatic liver tumor

岸 和弘1, 藤崎 由紀子2, 藤中 ちひろ2, 岸 史子1, 中村 文香1, 大喜田 義雄1

Kazuhiro KISHI1, Yukiko FUJISAKI2, Chihiro FUJINAKA2, Fumiko KISHI1, Fumika NAKAMURA1, Yoshio OKITA1

1徳島市民病院内科, 2徳島市民病院臨床検査科

1Internal Medicine, Tokushima Municipal Hospital, 2Clinical Laboratory, Tokushima Municipal Hospital

キーワード :

【はじめに】
メトトレキサート(MTX)は関節リウマチ(RA)の治療において第一選択として使用される低分子疾患修飾性抗リウマチ薬/低分子経口抗リウマチ薬(DMARD)で,現在では最も重要なアンカードラッグとなっている.しかしMTXは元来,抗がん剤であり,RA疾患自体の臓器予備能低下や免疫応答異常も加わり,骨髄抑制や間質性肺炎など重篤な有害事象を来すこともある.MTXの長期投与による副作用として悪性リンパ腫を含めたリンパ増殖性疾患の出現することがあり,WHO分類によるとMTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)として,immunodeficiency-associated LPDに分類される.今回,我々は,RA治療中に多発する肝腫瘍が出現し,転移性肝がんとの鑑別を要したMTX-LPDの症例を経験したので報告する.
【症例】
60歳代男性.20年前からRAにて近医に通院中で,MTX 14mg/週,PSL 5mg/日,ナプロキセン400mg/日でコントロールされていた.約1か月前から食欲低下が出現,2週間前から腹部膨満感や心窩部痛も出現するようになり,近医受診.血液検査にて肝機能障害を指摘,腹部超音波検査を施行されたところ,肝臓内に多発する腫瘤を指摘され,当科紹介受診となった.腹部超音波検査では,肝臓両葉の腫大と多発する比較的境界明瞭な低エコー腫瘤を認めた.腫瘤は最大でS8の86x67mmであり,右葉後区域には複数の腫瘤が一塊となったcluster signもみられ,中等度の腹水貯留も認めた.ソナゾイド®による造影超音波検査では,肝臓内の腫瘤は早期血管相にて周囲から内部に向かってソナゾイド®が樹枝状に流入し,後血管相では明瞭な造影欠損となった.造影CTでは肝臓の多発する腫瘤は辺縁部にリング状に造影され,中心部は造影効果が乏しく,転移性肝がんも疑われたが,PET-CTでは腫瘍部のFDG集積を認めなかった.上部消化管内視鏡検査では胃内に多発する潰瘍認めたが,H.pyloriは陰性であった.診断目的で超音波ガイド下に肝腫瘍生検を行ったところ,病理組織学的には不整な異型リンパ細胞の浸潤増殖を来しており,免疫染色によりCD3・CD5陽性のため,T細胞リンパ腫と診断された.MTX-LPDを最も疑い,MTXを中止したところ,肝機能異常を含めた血液検査は速やかに改善した.また胃潰瘍については,NSAID潰瘍と悪性リンパ腫の鑑別は困難であったが,MTX・ナプロキセン中止により治癒し,食欲低下や心窩部痛,腹部膨満感などの自覚症状も速やかに改善した.腹部超音波検査で経過を追ったところ,肝臓内の低エコー腫瘤はサイズ,数ともに減少していき,腹水も消失した.
【考察】
関節リウマチ診療ガイドライン2014によると,RAと診断された場合,禁忌でない限りMTXを開始することが推奨されている.MTXの使用頻度の増加に伴い,RA治療中に発症するMTX-LPDの存在が見いだされ,報告されるようになってきた.MTX-LPDの節外病変は肺,皮膚,消化管など多彩であり,ほとんどがB細胞リンパ腫とされるが,本例のように肝臓が主体で,T細胞リンパ腫であることは稀である.肝臓の悪性リンパ腫では低エコー腫瘤として認められることが多く,造影超音波検査では豊富な動脈血流を反映し,微細で豊富な造影効果を認め,後血管相ではその効果は減弱すると報告されており,本例でも同様の結果であった.
【結語】
RAによりMTXなどの薬剤で治療中の患者に対してはMTX-LPDの合併も考慮し,定期的な超音波検査などの全身検査が必要であると考えられた.