Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

一般口演
工学基礎 組織性状評価

(S555)

高周波数超音波顕微鏡を用いた細胞の音響特性計測

Measurement of acoustic properties of cells using high frequency acoustic microscopy

伊郷 泰智1, 荒川 元孝1, 長岡 亮1, 小林 和人2, 西條 芳文1

Taichi IGO1, Mototaka ARAKAWA1, Ryo NAGAOKA1, Kazuto KOBAYASHI2, Yoshifumi SAIJO1

1東北大学医工学研究科, 2本多電子研究開発本部

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Research Division, Honda Electronics Corporation

キーワード :

【1,はじめに】
現在,細胞のバイオメカニクスが注目されている.バイオメカニクスとは生体の機能と構造を力学的面から解析することであり,医学や生物学,工学に応用されている.報告されている研究には,血管内皮細胞から動脈硬化の発生・進行の原理解明1やがん細胞に薬剤投与後の力学的特性の変化2などがある.
私は,細胞の力学的特性を計測できる方法のうち,低侵襲で迅速に測定可能な超音波顕微鏡を用いて計測を行っている.超音波顕微鏡で計測した音響特性と呼ばれる細胞の硬さに関係するパラメータを評価することで病気の原理解明を目指している.
超音波を利用して計測する音響特性には,細胞の厚さや音速,密度,音響インピーダンス,体積弾性率,減衰などがある.また,超音波は高周波ほど分解能が高くなる性質があり,細胞を対象とする場合GHz帯の超音波を用いることが望ましい.研究目的は高周波数超音波顕微鏡を用いた細胞の音響特性データの収集とするが,本報告では3T3-L1繊維芽細胞および3T3-L1脂肪細胞の厚さと音速をパルススペクトル法と時間分解法を組み合わせた方法で算出することを目的とする.
【2,対象と方法】
用いた超音波トランスデューサの中心周波数は250 MHzであり,分解能は約6 μmである.自動ステージ(シグマ光機,SFS-H60XY)は最小ステップ数が1 nmという高精度でかつノイズが少ないものを使用している.ファンクションジェネレータ(エヌエフ回路設計ブロック,WF1943)はトリガー信号生成に使用していて,パルサーレシーバー(PUAM-100)は450 MHzまで対応可能である.A/Dコンバータはサンプリング周波数が8 GS/sである.実装している光学顕微鏡(OLYMPUS,GX41)は任意の細胞への位置合わせや光学画像と超音波画像との比較を可能にしている.
解析に使用している時間分解法は細胞表面からの信号と裏面からの信号の時間差を利用して厚さと音速を算出する方法である.パルス波スペクトル法は,基準とするリファレンス信号とサンプルからの反射信号の位相差を用いて周波数領域で解析する方法である3,4.細胞表面からの信号と裏面からの信号は同位相の時,干渉信号は極大となり,逆位相の時,干渉信号は極小をとる.そのため細胞からの信号をフーリエ変換すると極大と極小が生じることとなりこれを利用して算出を行っている.まず,時間分解法を用いて各点における厚さを算出し,その結果をもとにパルス波スペクトルを適用し,厚さと音速を算出する.
【3,結果】
3T3-L1繊維芽細胞は細胞の中心部分に向かって厚さが大きくなり,音速は細胞質の部分より核の方が大きいことが確認できた.3T3-L1脂肪細胞では,脂肪滴の部分が細胞質よりも低い音速を示すことが確認された.
【4,考察】
核の部分で音速が大きく算出されたのは,核は分子密度が高く細胞質より硬いためだと考えられる.また,脂肪細胞の脂肪滴の部分の音速が低く算出されたが,脂肪は他組織に比べて音速が低いことが知られており妥当性があると言える.
【5,結語】
時間分解法とパルス波スペクトル法を用いて3T3-L1繊維芽細胞および3T3-L1脂肪細胞の厚さと音速を算出した.