Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

Keynote Lecture
Keynote Lecture 6 運動器 Keynote Lecture 6 運動器

(S511)

乳児股関節脱臼の超音波検査は誰がするのか?

Who perform ultrasonographic examination for Development Dysplasia of the Hip joint?

藤原 憲太

Kenta FUJIWARA

大阪医科大学整形外科学教室

Orthopedics, Osaka Medical College

キーワード :

第1回日本整形外科超音波研究会は,乳児股関節脱臼に対する検査法を提唱したReinhard Graf医師を招聘して行われました.乳児股関節,肩関節,術中の脊髄の観察などが当時のトピックでした.
先天性股関節脱臼(もしくは発育性股関節形成不全):(Development Dysplasia of the Hip joint以下DDH)は,少子化が進む現在においても軽視できない運動器の問題です.今回,当院でのDDHスクリーニングシステムと,現在のDDHの超音波検査にまつわる諸問題と解決案を紹介いたします.
当院でのDDHのスクリーニングシステムは,小児科医4名,超音波検査士4名,小児整形外科医1名が協力して構築しています.概要ですが,当院で出生した児の保護者に対し,1カ月検診時に小児科医により超音波によるDDHの早期発見,早期治療の必要性を説明します.超音波検査へのインフォームドコンセントが得られた児に対して超音波検査士により超音波検査を行います.その結果は小児科医により,Graf分類に準じて正常,未熟,病的股関節にトリアージされます.未熟および病的股関節と判定された児は小児整形外科医に紹介され,再度の超音波検査により,その後の治療方針が決定されます.このシステム運用後に手術に至った症例はなく,1カ月時の鮮明な超音波画像をもとに,正確な診断を行い,育児指導や必要ならば治療が受けられるこのシステムは,身体診察のみのスクリーニングに比べて見逃し症例,いわゆる診断遅延例を減少させる有用な検診方法と考えています.
ただし,このスクリーニングシステムを稼働させるにはDDH超音波検査を担当できる複数の人材が必要であり,当院のシステムがうまく稼働している背景には,超音波検査士が複数関与していただいていることがあげられます.
今日的なDDH検診の問題点として日本小児整形外科学会のマルチセンタースタディで明らかとなった,歩行開始後のDDH発見例の増加があげられます.まさにDDH検診体制は今や危機的な状況であり,その見直しが急務となっています.
見逃しを減少させる為の画像検査としては,超音波検査が強く推奨されます.欧米では,リスクのある児童にのみ超音波検査を行うか,全例に行うかの議論がいまだ行われていますが,私見ではありますが,この検診体制の立て直しには全例の超音波検査が必要と考えています.
今回紹介したシステムは,あくまで病院単位であり,自治体や国レベルでのスクリーニングシステム構築ではありません.私が理想とするオーストリアのような全例への超音波検診を日本で行うためには,新たな戦略が必要です.
構想としては,第一に自治体レベルで検診体制を立て直すことがあげられます.将来的に各都道府県が,当院のようなスクリーニングシステムを持つ病院を複数箇所拠点として擁する状況の実現が理想です.第二に,現在金城らが沖縄の離島での検診システムとして構築運用している遠隔診断システムを利用することがあげられます.これを都市部でも運用することで,検査ができても診断ができないという状況を解決することが可能です.ただ以上のことを実現させるためにはやはり人材育成が最重要課題です.
Graf法の普及のため,日本整形外科超音波学会では,年2回実際の赤ちゃんの検診を経験することのできるセミナーを開催し,Graf法に習熟した人材の育成を行ってきました.セミナーは62回を数え,受講者はのべ1000人を超えています.しかし受講者のほとんどが整形外科医で,小児科医と超音波検査士の皆様の参加はまだ少ないのが現状です.今後の超音波検査士の皆様の参画がDDH検診の発展の根幹であると考えています.