Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 運動器
パネルディスカッション 運動器(一部英語) 知っとく(得)! 救急現場における運動器超音波

(S492)

伝えたい!超音波が変える運動器の救急診療

Musculoskeletal Ultrasound for Emergency Medicine

皆川 洋至

Hiroshi MINAGAWA

医療法人城東整形外科整形外科

Orthopedic Surgery, Joto Orthopedic Clinic

キーワード :

20世紀をレントゲン時代と呼ぶ.当時は頼れるイメージモダリティがX線装置しかなかったため,どこか痛がる患者が来院すれば,放射線技師にお願いし患部をX線撮影した(まずレントゲン).病態がはっきりしなくても,明らかな骨折や脱臼がなければそれで済まされた(骨に異常ありません).骨しか見えないX線写真だけでは運動器疾患を正確に診断できなかったため,「打撲」や「捻挫」といった診断名を使わざるを得なかった.診断レベルが低ければ,治療レベルも低くなる(はいシップ,痛み止め).治療効果が少ないときには“年のせい”にし,曖昧な治療を当たり前のように漫然と繰り返した.「まずレントゲン」,「骨に異常ありません」,「はいシップ,痛み止め」が常識だった20世紀は,患者サイドから見ればまさに運動器診療の暗黒時代であった.
21世紀に入り,エコー時代へのパラダイムシフトが始まる.骨しか見えないX線写真に対し,超音波画像では骨ばかりでなく,運動機構生体の軟骨・筋・腱・靭帯・神経・血管がプローブを当てるだけで簡単に観察できるようになったのである.エコーの優れた空間分解能は,最高のイメージモダリティと謳われてきたMRIを超え,骨膜の肥厚,軟骨の亀裂,腱や靭帯の不全断裂,末梢神経のくびれ,そして微小静脈血栓など,従来描出できなかった様々な病変がとらえられるようになった.エコー特有の優れた時間分解能が,リアルタイムな動きの観察,血流状態の把握,さらには軟部組織の固さの定量化を可能にした.基本である解剖学と整形外科学の知識を動員すれば,多くの運動器疾患の病態が瞬時に把握できるようになったのである(見えるから分かる).そして病態の可視化が治療レベルの飛躍的向上につながっていく(分かるからできる).
夜間・休日に起きた「急病」や「外傷」に対し,応急処置をするのが救急診療の役割である.ときに生死に関わる状態で患者が飛び込んでくるため,担当医は大きな責任を負う.人手や時間に制約がある診療体制では,生死にかかわらない運動器疾患を「まずレントゲン」,「骨に異常ありません」,「はいシップ,痛み止め」で済ましても仕方がなかった.診療レベルがいかに低くても,翌日や休日明けに必ず専門診療科を受診するよう指示すれば全てが許された.しかし実際には,首が痛くて回らない,腰が痛くて動けない,肩が痛くて上がらない,転んで手をついた,足首を強く捻じったといった患者は後を絶たない.今すぐ何とかして欲しいからわざわざ受診してきた患者にとって,医療者サイドの人手と時間の都合が最優先され,診療が簡単に済まされてはたまったものではない.超音波ガイド下注射ができるだけでも,運動器疾患による激烈な痛みは瞬時に取り去ることができる.救急診療の現場だからこそ,今の時代にレントゲン時代の常識を通用させてはならないのである.
超音波診療が整形外科ばかりでなく,運動器に関わるリウマチ科,ペインクリニック,放射線科,総合診療科で急速に普及している.エコーを駆使することで,人手と時間をかけずに素早く正確な診療ができるようになったことが背景にある.大幅な医療費削減にもつながるため,今後は間違いなく時代が超音波診療を後押ししていくことになる.もはや運動器疾患に対する超音波診療の技術は,救急診療に関わる全ての医師が身に着けておく必要がある.知らなくて損するのは,医師ではなく患者だからである.