Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 運動器
シンポジウム 運動器(一部英語) 新しい超音波技術で運動器を評価する

(S489)

運動器疾患の血流評価

Assessment of vascularity of musculoskeletal disorder

山本 宣幸

Nobuyuki YAMAMOTO

東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座整形外科学分野

Department of Orthopaedic Surgery, Tohoku University School of Medicine

キーワード :

運動器疾患ではどのような時に血流評価を行うのか.血流豊富な滑膜などでは例えば関節リウマチの疾患活動性の評価として以前より行われてきた.近年は比較的血流の乏しい腱や靭帯,そして超音波検査に向いていないと思われてきた固い組織である骨疾患(骨折など)などの評価にも用いられている.腱や靭帯でも超音波造影剤やSMIなど最新の超音波技術を用いることによって従来同定できなかった細かい血流分布を検知できるようになり,病態把握や治癒判断に用いることができるようになった.
肩腱板断裂は肩関節疾患の中でも最も多く遭遇する疾患一つである.我々が行った一般住民を対象にした疫学調査では50歳から断裂は生じ,その頻度は年々増加し,80歳代では3人に1人が腱板断裂を持っていることが分かっている.また我々の外来患者の疾患別内訳(2007年-2012年)を見てもその1/4から1/3が腱板断裂であることから頻度の多さがよくわかる.このように頻度の高い腱板断裂であるが,何故断裂しやすいのかは諸説ある.その原因の一つとして腱板付着部1cmの部位には血流の乏しい「critical zone」があり,それが腱板断裂の原因となっているという説がある.しかし近年のLaser doppler flowmetryや超音波造影剤を用いた研究により「critical zone」は存在しないという報告が散見されるようになってきた.超音波造影剤を用いた研究により腱板の関節面側よりも滑液包側の方が血流が豊富であること,また年齢とともに腱板の血流は低下することなどが報告されており,これらが腱板断裂の原因の1つになっていることが最近明らかになってきている.
我々はこれまでに腱の修復過程を血流という面からアプローチしてきた.腱板断裂に対して行われた鏡視下腱板修復術後の血流評価を行ってきた.44症例(平均年齢62歳)を後ろ向きに調査した.術後平均経過観察期間は13ヵ月である.血流評価はSMIおよびカラードップラーを用いて術後1,3,6,9,12,18,24ヵ月に行った.挿入したスーチャーアンカーの穴から血流が腱板に増生しているのが観察された.術後3ヵ月では82%の症例でこの血流増加がみられていたが,経時的にアンカーからの血流は消失し,6ヶ月で75%,12ヵ月で67%,18ヵ月で20%,24ヵ月で25%に減少していた.つまり2/3の症例で術後1年経過しても血流増加がみられていることになる.また術直後から1ヵ月まで肩峰下滑液包の血流は一時的に増加していることが分かった.これらの現象は腱という柔らかい組織と骨という固い組織を強固に結ぶ付けるために生体で生じている修復過程の変化かもしれない.
骨折や離断性骨軟骨炎の治癒評価にも用いることができる.骨内の血流は勿論評価できないが,骨の表面を覆っている骨膜の血流を観察することで骨折部を別の視点から治癒評価することができる.骨癒合が起きる骨折部では骨膜の血流が増加しているのが観察される.つまり,骨折部に血流増加がみられると骨癒合が得られてきているという判断材料になる.離断性骨軟骨炎も同様でその治癒判断にはCTやMRI検査が必要であったが,超音波検査による血流評価を行うことによってこれらの検査を行わずとも治癒の評価材料となる.
本発表では運動器疾患の血流評価について最新の超音波技術を用いた報告を紹介しつつ,我々が行ってきた肩腱板の血流評価を中心に述べたい.