Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 血管
ワークショップ 血管 1 血管診療に必要なモダリティは何か?!血管エコーvs他のモダリティ

(S479)

下肢静脈エコー検査の有用性

Clinical Utility of Lower Limbs Vein Ultrasound Examination

西尾 進, 鳥居 裕太, 山田 博胤, 佐田 政隆

Susumu NISHIO, Yuta TORII, Hirotsugu YAMADA, Masataka SATA

徳島大学病院超音波センター

Ultrasound Examination Center, Tokushima University Hospital

キーワード :

【はじめに】
下肢静脈の疾患は,深部静脈疾患と表在静脈疾患に二分される.深部静脈疾患で最も多いのは深部静脈血栓症(DVT)であり,表在静脈疾患は静脈瘤である.これらを診断するツールとして,現在第一選択的に行われるのは超音波検査であり,これはコンセンサスの得られているところである.血管エコー検査が今日のように普及した背景には,超音波診断装置の進歩,特にリニアプローブの性能向上が挙げられる.下肢静脈エコー検査が主流となる前は,DVTの診断において造影CT検査,静脈造影検査などが行われていたが,これらは言うまでもなく放射線被曝の問題があり,また静脈造影は痛みを伴う侵襲性の高い検査であった.それに比べ超音波検査は,簡便で安価であり時間分解能に優れており,繰り返し検査ができるという利点があることは周知の事実であり,超音波検査が下肢静脈疾患の診断ツールとして市民権を得た理由である.
【DVT診断における下肢静脈エコー検査の有用性】
DVTの診断において,下肢静脈エコー検査では,下肢の浮腫が強い場合は部分的に深部静脈が観察困難となることもあるが,そのような限られた状況を除けばほぼ深部静脈全体を網羅できる.また,超音波検査の利点として,血栓の性状や中枢端の可動性などの評価に優れていることが挙げられる.造影CT検査や静脈造影検査では,血栓の存在診断はできてもこのような評価は不可能である.下肢静脈エコー検査によって得られる血栓の動的評価は,下大静脈フィルターの適応を決定するうえでも有益な情報である.また,抗凝固療法による治療効果判定にも,超音波検査は有用であり血栓の退縮過程や器質化の過程が繰り返し観察可能である.
【下肢静脈瘤診断における下肢静脈エコー検査の有用性】
下肢静脈瘤の診断は,大伏在静脈合流部や小伏在静脈合流部における弁機能不全(逆流の存在)や,不全穿通枝の存在を証明することで行われる.これには,ミルキングやバルサルバ負荷などを行いながら観察する必要があり,リアルタイムに観察できる超音波検査に取って変わるモダリティーは存在しない.静脈瘤の治療は,レーザー治療などの血管内焼灼術が主流となりつつあるが,手術前のマーキングも超音波検査を用いて行うことが多い.このように,下肢静脈瘤診療においては,診断からレーザー治療の一助として下肢静脈エコー検査は有用であり,特にレーザー治療後の合併症の一つであるEHIT(endovenous heat-induced thrombosis)の観察にも超音波検査は必要不可欠である.
【まとめ】
このように,診断的価値が高い下肢静脈エコー検査であるが,正しい検査手技を習得しないと,DVT症例では血管を強く圧迫し過ぎて血栓を飛ばしてしまったり,静脈瘤症例では弁逆流が誘発できなかったりという不具合が生じる.標準的な検査法を習得すれば,下肢静脈エコー検査は,造影CT検査や静脈造影検査を凌駕する下肢静脈疾患の診断ツールとなるはずである.