Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2016 - Vol.43

Vol.43 No.Supplement

特別プログラム 消化器
パネルディスカッション 消化器 1(一部英語) 急性腹症の超音波診断

(S326)

当院での急性腹症における超音波検査の現状と課題

Current status and Subject of ultrasonography for acute abdomen

橋ノ口 信一1, 乙部 克彦1, 石川 照芳1, 今吉 由美1, 安田 慈1, 日比 敏男1, 熊田 卓2, 豊田 秀徳2, 多田 俊史2, 金森 明2

Shinichi HASHINOKUCHI1, Katsuhiko OTOBE1, Teruyoshi ISHIKAWA1, Yumi IMAYOSHI1, Shigeru YASUDA1, Toshio HIBI1, Takashi KUMADA2, Hidenori TOYODA2, Toshifumi TADA2, Akira KANAMORI2

1大垣市民病院診療検査科形態診断室, 2大垣市民病院消化器内科

1Department of Clinical Research, Ogaki Municipal Hospital, 2Department of Gastroenterology, Ogaki Municipal Hospital

キーワード :

【背景】
急性腹症は,緊急手術をはじめとした迅速な処置を求められる腹部疾患群で,限られた時間のなかで的確で効率のよい診断と治療が必要である.近年,機器の進歩に伴い急性腹症において体外式超音波検査(US)やX線CT検査(CT)などの画像診断機器は初期対応の判断に寄与している.急性腹症診療ガイドラインでは被曝を考慮し,まずUSを施行し陰性または結論に達しなかった例にCTを施行することが推奨されている.USは簡便かつ非侵襲的に施行できる情報量の多い検査であるが,当院では特に夜間の救急診療においてCTが第一選択になる傾向にありUSの役割を見直す必要がある.
【目的】
急性腹症におけるUSとCTの診断能を比較し当院でのUSの現状を把握し,今後の役割および課題について検討する.
【対象】
2014年4月からの1年間に急性腹症疑いで受診した患者のうち48時間以内にUSおよびCTで原因精査を行った非外傷性の497例を対象とした.内訳は,男女比264:233,年齢は中央値63歳(5-95歳)であった.最終診断は手術例では手術所見および病理組織学的所見,非手術例では臨床経過,血液生化学検査所見の推移,画像診断およびその他の検査所見から行った.また,通常業務時間帯において遭遇した症例を対象とした.
【方法】
USは実質臓器を観察後,消化管を走査し適宜高周波プローブを使用して評価した.CTは単純または平衡相の撮像を行い,Axial像やMPR像で評価した.USとCTの最終的な正診率,有所見率の比較,第一選択となった際の検査別の正診率,有所見率の比較を行った.
【結果】
USの正診率は81.5%(405/497),有所見率は91.9%(457/497),CTの正診率は92.2%(458/497),有所見率は96.8%(481/497)であった.第一選択となったUS群の正診率は80.4%(221/275),有所見率は90. 5%(249/275),CT群の正診率は89.6%(199/222),有所見率は96. 4%(214/222)であった.疾患別頻度では,消化管疾患40.6%,胆膵疾患32.8%,泌尿器疾患7%に認め,各々のUSの正診率は89.6%,65%,86.1%,有所見率は92.6%,87.1%,97.2%,CTの正診率は96.1%,80.4%,100%,有所見率は98%,92.6%,100%であった.胆膵疾患のうちUSの正診率の低い疾患は胆管結石・胆管炎42.6%,急性膵炎42.4%であった.USでのみ診断できた症例には,胆石症,胆管結石,絞扼性イレウス,虫垂腫瘍などがあり,CTでのみ診断できた症例には胆管結石,急性膵炎,虚血性大腸炎,大腸憩室炎,急性虫垂炎,骨盤腹膜炎などがあった.
【考察および結語】
消化管疾患や泌尿器疾患ではUSの正診率は概ね良好であった.胆膵疾患ではUSの胆管結石描出はCTより劣るものの間接所見を高率に認め,診断に有用であると思われたが,軽症の急性膵炎の指摘は困難であった.USでは体型,主病変の解剖学的な存在位置の問題等により十分な評価が困難な場合があった.しかし,USはCTとほぼ同等の診断能が得られる疾患を多く認め,USでのみ診断できる症例も存在した.よって,被曝やヨードアレルギーの問題のあるCTよりUSを先行して施行し,必要に応じてCTを追加することでより安全かつ効率的な診療に役立つことが推測された.また,当院では時間外でのUSが対応できていない事もCTが優先される原因のひとつであり,人員の確保を含めた検査体制や教育体制について今後改善していく必要があると考えられた.