Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 甲状腺
甲状腺 

(S669)

上甲状腺動脈血流速度を用いた甲状腺中毒症の鑑別〜自験例3症例を通じて〜

Evaluation of superior thyroid artery velocity in thyrotoxicosis patients

岡部 龍太1, 2, 高田 悦雄3, 4, 相場 由里子5, 濵中 理恵5, 藤田 光広5, 樫田 光夫1, 竹川 英宏2, 3

Ryuta OKABE1, 2, Etsuo TAKADA3, 4, Yuriko AIBA5, Rie HAMANAKA5, Mitsuhiro FUJITA5, Mitsuo KASHIDA1, Hidehiro TAKEKAWA2, 3

1公立阿伎留医療センター内科, 2獨協医科大学神経内科脳卒中部門, 3獨協医科大学超音波センター, 4那須赤十字病院超音波診断部, 5公立阿伎留医療センター検査科

1Department of Internal Medicine, Akiru Municipal Medical Center, 2Stroke Division, Department of NeurologyDokkyo, Medical University, 3Center of Medical Ultrasonics, Dokkyo Medical University, 4Department of Ultrasonic Diagnosis, Nasu Red Cross Hospital, 5Department of Clinical Laboratory, Akiru Municipal Medical Center

キーワード :

【目的】
甲状腺中毒症を来す疾患は,バセドウ病と破壊性甲状腺炎(亜急性甲状腺炎,無痛性甲状腺炎)がある.両者の鑑別には各種抗体検査や核医学検査が有用であるが,その結果を得るには一定の時間を要する.しかし早期治療開始が必要な症例が存在するため,甲状腺超音波検査による甲状腺実質のエコー輝度やドプラ血流シグナルおよび上甲状腺動脈の血流速度を用いた診断が試みられている1).われわれは自験例3例につき既知の報告を元に検討したので報告する.
【症例1】
76歳女性.全身倦怠感,発熱,呼吸困難で来院した.血圧113/66 mmHg,脈拍109回/分,coarse crackleおよび軽度の下肢浮腫を認めた.血液検査はCRP 0.73mg/dl,TSH 0.005μIU/ml以下,FT3 25.30pg/ml,FT4 6.99ng/dl,BNP 2825pg/mlであり,胸部レントゲンは心拡大と両側胸水貯留を示し,甲状腺中毒症およびうっ血性心不全と診断した.超音波検査はびまん性の甲状腺腫大を呈し,ドプラ血流シグナルは全体に増加,右上甲状腺動脈の最大収縮期血流速度(peak systolic velocity:PSV)は141.3 cm/secであった.バセドウ病と診断し,直ちに心不全治療と抗甲状腺薬を開始した.
【症例2】
75歳女性.パーキンソン病で加療中であり,意識障害を主訴に来院した.血圧118/80mmHg,脈拍97回/分で軽度の頻脈を認める以外,理学的所見に異常はなかった.血液検査ではTSH 0.005μIU/ml以下,FT3 6.60pg/ml,FT4 3.77ng/dlを示したが,その他の検査に明らかな異常は認めなかった.甲状腺超音波検査では甲状腺の峡部が腫大(5mm)し,実質は不均質でドプラ血流シグナルは全体に増加し,上甲状腺動脈のPSV 52.8cm/secであった.各種検査の結果よりバセドウ病と診断し治療を開始した.
【症例3】
73歳女性.動悸を主訴に来院した.血圧128/83mmHg,脈拍86回/分であり,血液検査はTSH 0.005μIU/ml以下,FT3 4.54pg/ml,FT4 2.08ng/dl,心電図では上室性期外収縮が散見された.超音波検査では甲状腺腫大を認めず,上甲状腺動脈のPSVは29.7cm/secであった.各種検査より慢性甲状腺炎経過中に生じた無痛性甲状腺炎と診断した.
【考察】
甲状腺中毒症の迅速鑑別には遊離T3/T4,総ALPなどの血清学的診断や超音波診断がなされているが,上甲状腺動脈のPSVを用いた鑑別法も複数報告されている.しかしその診断基準にはばらつきがあり,さらにバセドウ病の病期により血流速度が変動する.しかし症例1はPSVの上昇が認められたため,迅速な診断および治療が可能となった.今後,症例の蓄積と詳細な検討により,甲状腺中毒症におけるバセドウ病の鑑別に上甲状腺動脈PSV上昇が有用となる可能性がある.
【結語】
甲状腺中毒症の迅速鑑別に上甲状腺動脈の血流速度は有用である可能性がある.
【参考文献】
1)Uchida T, Takeno K, Goto M et al. Superior thyroid artery mean peak systolic velocity for the diagnosis of thyrotoxicosis in Japanese patients. Endocrne J 2010;57(5):439-443.