吉原 雅人, 眞山 学徳, 西尾 洋介, 田野 翔, 宇野 枢, 鵜飼 真由, 近藤 真哉, 古株 哲也, 岸上 靖幸, 小口 秀紀

Masato YOSHIHARA, Michinori MAYAMA, Yosuke NISHIO, Sho TANO, Kaname UNO, Mayu UKAI, Shinya KONDO, Tetsuya KOKABU, Yasuyuki KISHIGAMI, Hidenori OGUCHI

トヨタ記念病院産婦人科

Department of Gynecology and Obstetrics, Toyota Memorial Hospital

キーワード :

【緒言】
Obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomaly（OHVIRA）症候群は，20,000例に1例発生する極めて稀な疾患で，重複子宮，重複腟，片側腟閉鎖による腟留血腫および同側腎欠損を合併する．下腹部痛，月経困難症，月経不順，帯下異常等を契機に若年者で診断されることが多いが，疾患形態の複雑さから術前診断は困難とされる．今回われわれは，超音波断層法で術前診断し，腟壁開窓術を施行したOHVIRA症候群の1例を経験したので報告する．
【症例】
23歳，未経妊．既往歴に特記すべき事項はない．持続する茶色帯下，過多月経および月経困難症を主訴に近医を受診し，腟壁嚢腫の診断で精査治療目的に当科紹介となった．内診所見では子宮は両角とも正常大で，腟鏡診では，腟中隔はなく，左腟壁は膨隆し，外子宮口は単一で右に偏位していた．経腟超音波断層法では子宮は右角：6.1×3.2 cm，左角：7.5×3.7 cmの重複子宮で，膀胱背側に細顆粒状エコー像を呈する4.9×3.8 cmの嚢胞性腫瘤を認め，左角の子宮口は嚢胞性腫瘤内に開口していた．両側卵巣は正常で，Douglas窩に腹水はなかった．経腹超音波断層法では左腎は欠損し，造影CTでは同様に左腎の欠損および右腎の代償性肥大を認めた．子宮卵管造影では右角の内腔と右卵管のみが同定でき，右角と左角の交通はなかった．MRIで腟壁腫瘤はT1強調画像，T2強調画像，脂肪抑制画像で高信号を呈し，左側の腟壁閉鎖による腟留血腫と考えられた．OHVIRA症候群の術前診断で，腟壁開窓術を施行した．膨隆した左腟壁を切開するとチョコレート様の内容液が流出し，内腔に左角の外子宮口を認めた．腟壁の切開創を延長し両側の外子宮口が腟に開口していることを確認した上で手術を終了した．術後経過は良好で術後1日目に退院となった．その後の経過は良好で，術後25日目に月経発来し，術後1ヵ月では帯下異常も改善した．術後3ヵ月経過する現在，再発兆候なく外来経過観察中である．
【結論】
OHVIRA症候群は，本症例と同様に対側との交通を持たない完全閉塞を呈するものが約半数を占め，対側と交通を持つ不完全型に比して月経困難症の症状が強いとされる1）．また，未治療の場合，子宮内膜症の増悪や骨盤内癒着，卵管閉塞を引き起こし不妊に至る可能性も高い．腟壁開窓術や診断的腹腔鏡下手術，患側子宮および閉鎖腟管切除術を行い，自然妊娠した症例も報告されているため，早期の正確な診断が，低侵襲な治療を選択する上で重要である2）．詳細な超音波断層法による子宮奇形の解剖の把握が，OHVIRA症候群の診断および術式の決定に有用であった．
【文献】
1.Rock JA, Jones HW Jr. The double uterus associated with an obstructed hemivagina and ipsilateral renal agenesis. Am J Obstet Gynecol 1980;138:339-42.
2.Smith NA, Laufer MR. Obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomaly（OHVIRA）syndrome: management and follow-up. Fertil Steril 2007;87:918-22.