Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児異常③ 

(S642)

体幹部に発生した稀な胎児リンパ管腫の1例

A rare fetal lymphangioma of the trunk; a case report

小西 晶子, 種元 智洋, 田沼 有希子, 吉居 絵理, 嘉屋 隆介, 上出 泰山, 青木 宏明, 佐村 修, 大浦 訓章, 岡本 愛光

Akiko KONISHI, Tomohiro TANEMOTO, Akiko TANUMA, Eri YOSHII, Ryusuke KAYA, Taizan KAMIDE, Hiroaki AOKI, Osamu SAMURA, Kuniaki OOURA, Aikou OKAMOTO

東京慈恵会医科大学附属病院産婦人科

Obstetrics and Gynecology, The Jikei University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
リンパ管腫は,リンパ系の局所的もしくはびまん性の構造異常で,拡張した嚢胞状のリンパ管である大小の嚢胞性病変を特徴とする良性腫瘍である.胎児期もしくは新生児期に診断されることが多く,80〜90%は2歳までに発見される.全身のほぼすべての場所に発生しうるが,頚部で最も高頻度に認められ,その他の部位は比較的頻度が少ない.妊娠初期に出現するものはほとんどが頚部発生で,胎児染色体異常のリスクが50%とされている.染色体が正常核型であっても,その半数に心奇形や骨格異常などの大きな構造異常を合併する.妊娠中期以降に出現する場合は,他の奇形や胎児水腫との関連性はなく,死亡率は非常に低い.出生後の治療は原則外科的切除であるが,完全切除が可能な症例は全体の75%に過ぎない.再発率は高く難治性である.今回われわれは,発生部位として少ないとされる臀部から大腿部を中心に発生し,嚢胞の増大および嚢胞内の出血を認めた胎児リンパ管腫の1例を経験したので報告する.
【症例経過】
35歳,未経妊未経産.自然妊娠後,前医で妊婦健診を受けていた.妊娠18週の妊婦健診で胎児臀部から大腿部にかけての嚢胞性腫瘤を指摘され,妊娠19週当院紹介受診となった.超音波断層法で,胎児の背部から臀部を中心として一部陰部にもかかる多房性嚢胞性腫瘤が認められ,胎児リンパ管腫と診断された.その他には異常所見は認めず,胎児発育は正常,羊水量も正常範囲であった.前医にて妊娠18週に行われた羊水染色体検査の結果は46,XXであった.妊娠20週時のMRI検査では,胎児両側側腹部から臀部に皮下肥厚を認め,T2強調画像においてリンパ液に特徴的とされる高信号に描出される嚢胞状構造を伴った.胎児発育は正常であったが,リンパ管腫は増大傾向にあり胎児肩甲部位まで拡がりを認めた.妊娠31週の超音波断層法にて,胎児胸部の皮下肥厚は50mmであり,一部の嚢胞で出血を示唆する鏡面像を認めた.超音波ドプラ法による胎児中大脳動脈最高血流速度が61 cm/sec(1.42 MoM)と上昇傾向であり,リンパ管腫内の出血による胎児貧血を疑い入院管理とした.入院後施行したMRI検査では,体幹部皮下に多房性嚢胞性腫瘤を認め,T2強調画像で信号が不均一,T1強調画像で一部高信号を呈し,嚢胞内の出血と考えられ,病変は胸部から会陰部に至った.また,胎児腹部,腎臓周囲にもT2強調画像にて高信号を呈す腫瘤を認め,後腹膜リンパ管腫と考えられた.体幹部の娩出困難が予測されたため,妊娠36週5日に選択的帝王切開術を施行,児は3140gの女児で,Apgar score 8点(1分値)/9点(5分値),臍帯動脈血pHは7.31であった.出生後,児の呼吸循環動態は安定していたが,リンパ管腫の加療目的にNICU入院となった.出生後の超音波断層法では,両側側胸部から側腹部および右大腿内側にかけて,皮膚直下に多房性分葉状の境界明瞭な嚢胞性腫瘤が広範囲にみられた.リンパ管腫の出血による貧血に対し輸血を行い,ピシバニール(OK-432)による硬化療法を行っている.
【まとめ】
稀な部位に発生した胎児リンパ管腫の症例を経験した.胎児リンパ管腫の出生前診断は超音波診断が中心で,簡便性から経過観察にも有用であった.MRI検査は腫瘍の全体像をより明瞭に描出でき,出血部位の評価にも適していると考えられた.