淵 直樹, 三浦 清徳, 長谷川 ゆり, 山崎 健太郎, 増崎 雅子, 吉田 敦, 増崎 英明

Naoki FUCHI, Kiyonori MIURA, Yuri HASEGAWA, Kentaro YAMASAKI, Masako MASUZAKI, Atsushi YOSHIDA, Hideaki MASUZAKI

長崎大学医学部産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Nagasaki University Graduate School of Medicine

キーワード :

今回胎児腹水貯留，腟留水症および両側水腎症を認め，出生後に先天性腟閉鎖と診断された症例を経験したので報告する．症例は35歳初産婦．妊娠29週の超音波検査で，膀胱下部に嚢胞性腫瘤像を指摘され，経過観察された．妊娠31週，胎動減少を主訴に前医を受診し，多量の胎児腹水を認めたため，当院を紹介された．当科での超音波検査で，胸郭を圧迫する程の腹水貯留，膀胱下部の嚢胞性腫瘤，緊満した膀胱，両側腎盂拡大および単一臍帯動脈を認めた．皮下浮腫も著明であり，胎児水腫を呈していた．同日，胎児MRIを施行し，膀胱下部の嚢胞性腫瘤は解剖学的位置関係から腟留水腫であることが判明した．胎児腹水除去術を施行し，腹水の性状は淡黄色の漏出性成分であることが確認された．胎児腹水の染色体検査の結果は46，XXであった．腹水除去後は腹水の再貯留は認められず，妊娠を継続した．妊娠33週に胸水貯留と羊水過少を認め，胎児水腫が増悪したので，帝王切開術を行い，2,526gの女児をアプガースコア3点/8点（1分/5分）で娩出した．児は著明な全身浮腫を認め，新生児遷延性肺高血圧症を呈したため厳重な呼吸循環管理を要した．外陰部所見は女性型で，外陰部には尿道口と肛門が確認された．それぞれの開口部にカテーテルを挿入し，尿と便が排出された．尿の排出により，緊満した膀胱は縮小したが，腟留水腫の大きさに変化はなかった．日齢46日に膀胱造影および膀胱鏡検査を施行したが，泌尿器と生殖器との交通は認められず，先天性腟閉鎖症と診断した．本例は胎児期に腟閉鎖を機転とし腟留水症を来たし，胎児水腫を発症したものと考えられた．