Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 消化器
びまん性肝疾患(エラストグラフィ①) 

(S587)

肝硬度と肝血行動態破綻を経時的に観察し生体肝移植を施行した遅発性肝不全の1例

Serial changes of liver stiffness and hemodynamics in late onset hepatic failure: a case report

阿部 珠美1, 黒田 英克1, 及川 隆喜1, 三上 有里子2, 武田 智弓2, 諏訪部 章3, 滝川 康裕1

Tamami ABE1, Hidekatsu KURODA1, Takayoshi OIKAWA1, Yuriko MIKAMI2, Chiyumi TAKEDA2, Akira SUWABE3, Yasuhiro TAKIKAWA1

1岩手医科大学内科学講座消化器内科肝臓分野, 2岩手医科大学中央臨床検査部, 3岩手医科大学臨床検査医学講座

1Division of Hepatology, Department of Internal Medicine, Iwate Medical University, 2Central Clinical Laboratory, Iwate Medical University, 3Department of Laboratory Medicine, Iwate Medical University

キーワード :

【はじめに】
成因不明の遅発性肝不全に対し,Virtual Touch Quantification(VTQ)と超音波ドプラ法のFFT解析を用いてVs値と肝血行動態を経時的に測定し,生体肝移植まで追跡し得たので報告する.
【症例】
52歳,女性.生来健康であった.
【主訴】
全身倦怠感
【現病歴】
平成23年10月7日に全身倦怠感を認め,症状出現から7日後に近医にて肝障害を指摘され当科紹介入院となる.
【現症】
体温37.1度,血圧142/81mmHg,脈拍72回,意識レベルは清明,腹水や下肢の浮腫は認めない.生化学検査はT.Bil 14.2mg/dl,AST 643IU/l,ALT 871IU/l,PT 65.2%,NH3 54μg/dlであった.
【入院後経過】
入院時のVs値は2.5±0.2m/sで,その後緩徐に上昇し続け,第42病日には3.2±0.3m/s,第84病日には4.5±0.2m/sにまで上昇した.また,門脈右枝の収縮期最高流速(Vmax)ならびに併走する肝動脈のVmaxと血管抵抗係数(resistance index: RI)を計測したところ,肝動脈のVmaxは入院時45.1cm/secであったが,第84病日には114.3cm/secにまで上昇し,門脈のVmaxは24.1cm/secから第84病日には5.2cm/secまで低速化した.肝動脈RIは,第9病日には0.67であったが,第84病日には0.81にまで上昇した.門脈径は9.0±0.5mmで全経過に渡り著変は認められなかった.経過中,ステロイドパルス療法,血漿交換や持続濾過透析を施行したが徐々に肝萎縮の進行を認め,第57病日にII度の肝性脳症を発症.肝萎縮を伴った広範な肝細胞壊死の状態で肝再生の徴候は認めず,第94病日に生体肝移植が施行された.摘出肝は褐色で重量1000mgと萎縮しており,病理組織学検討では肝全体に広汎壊死,炎症,再生像,胆汁鬱滞と線維化を認めた.また,静脈周囲の線維化と中心静脈内皮下に炎症細胞浸潤を認めた.
【考察】
本例のVs値や肝血流は,病態悪化を反映してダイナミックな変化を示した.急性肝不全における肝硬度上昇や血流変化は,広汎性の壊死炎症や類洞における微小循環障害を原因とする肝類洞内圧の上昇など複雑な肝組織変化が影響したと推測されている.肝硬度と肝血流は急性肝不全の予後指標のひとつとも考えられており,若干の文献考察を交えて報告する.