Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 消化器
肝腫瘍(症例報告②) 

(S583)

肝腫瘤を造影超音波検査にて観察し得たメソトレキセート関連リンパ増殖性疾患の1例

A case of Methotrexate-associated lymphoproliferative disorder with liver tumor followed by contrast-enhanced ultrasonography

宜保 憲明1, 野々垣 浩二1, 土師 陽一郎2, 伊藤 公人3, 大北 宗由1, 南 正史1, 西川 貴広1, 榊原 聡介1, 下郷 友弥1, 印牧 直人1

Noriaki GIBO1, Koji NONOGAKI1, Yoichiro HAJI2, Kimito ITO3, Muneyori OKITA1, Masashi MINAMI1, Takahiro NISHIKAWA1, Sousuke SAKAKIBARA1, Tomoya SHIMOZATO1, Naoto KANEMAKI1

1大同病院消化器内科, 2大同病院膠原病・リウマチ内科, 3大同病院血液内科

1Department of Gastroenterology, Daido Hospital, 2Department of Rheumatology, Daido Hospital, 3Department of Hematology, Daido Hospital

キーワード :

【はじめに】
メソトレキセート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)は,メソトレキセート(MTX)の長期投与に伴って発症するリンパ腫で,免疫不全に伴うリンパ増殖性疾患に分類される.節外病変を形成することが少なくなく,肝に腫瘤を形成した症例も報告されている.しかし,MTX-LPDの肝病変を造影超音波検査で観察した報告はない.
今回,我々は,肝腫瘤を造影超音波検査で観察し得たMTX-LPDの1例を経験したので,報告する.
【症例】
患者は74歳女性.
50代より関節リウマチで近医に通院し,68歳時からMTXを内服していた.
入院8ヶ月前より顔面頬部の赤褐色皮疹と鼻部の潰瘍が出現した.鼻部潰瘍はやがて自壊し鞍鼻を呈した為,入院5ヶ月前に前医を受診した.皮疹からの生検で血管炎様の所見が得られ,リウマチ性血管炎の疑いでプレドニゾロン(PSL)投与を20mg/日から開始された.その後,鼻部潰瘍は改善傾向を示し,PSLは漸減されていた.しかし,入院5日前から倦怠感,食思不振が目立つようになり,入院当日には血圧低下と意識障害を認め,当院精査入院となった.
来院時の理学所見において,鼻尖部欠損と鞍鼻を認めたが,表在リンパ節は触知されなかった.体幹部単純CTでは,両肺野に最大径19mmの類円形腫瘤が多発し,肝後区域に淡い低吸収域を認めた.腹部造影CTを撮影したところ,肝後区域に9×7cmの不整形腫瘤が認められた.中心部は造影されなかった一方で,辺縁の一部は遅延性濃染を呈した.腹部超音波検査で,同病変は境界不明瞭,内部不均一な不整形低エコー腫瘤として描出された.転移性肝癌,胆管細胞癌なども鑑別に挙がったが,肝膿瘍の可能性も否定できず,経皮経肝的に腫瘤中心を穿刺した.しかし,膿汁は吸引できず,引き続いて同腫瘤の生検を施行した.採取した検体の大部分は壊死組織で占められていたが,一部に類円形で比較的大型の核を有する異型細胞が認められ,CD30陽性,CD3陰性,CD15陰性,CD20陰性,EBER陰性であった.血液検査においてはMPO-ANCA,PR3-ANCAはいずれも陰性で,sIL-2Rは11077U/mであった.以上よりMTX-LPDと診断した.
2系統の血球減少を契機に血球貪食症候群が明らかになり,MTX中止に加えてステロイド高用量投与も併用した.その後,多発肺結節影,肝腫瘤は共に縮小し,血球減少も回復した.
本例では,治療開始前,治療前半,治療後半の計3回,肝腫瘤に対して造影超音波検査を行った.動脈優位相から門脈優位相で辺縁部が染影され,腫瘤の輪郭が明瞭化した.そして,辺縁部の染影は後血管相で不完全な欠損を認めた.一方,腫瘤中心部は動脈優位相から後血管相まで染影効果は認められず,治療に伴いその非染影域は拡大した.
【考察】
腫瘤辺縁の染影領域は腫瘍組織で,中心の非染影領域は壊死組織だと考えられた.しかし,Bモードでは,腫瘍組織と壊死組織との区別はおろか,腫瘤と正常肝実質との境界を認識することも困難だった.本例においては,Bモード描出下で腫瘍組織を採取できたが,穿刺位置によっては壊死組織や正常肝実質のみの採取となっていた可能性があった.
造影超音波検査では,腫瘤の輪郭が明瞭化し,腫瘍組織と壊死組織とを識別することができた.壊死や変性が疑われるMTX-LPD肝病変では,造影超音波の使用が生検精度の向上に寄与すると考えられた.