Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 消化器
上部消化管 

(S550)

迷走脾を伴った胃軸捻転の2例

Two cases of gastric volvulus accompanied by wandering spleen

内田 みを1, 梅橋 未来1, 青木 めぐみ1, 伊集院 裕康2, 古賀 哲也2, 田島 誠一郎2, 神山 拓郎3, 河野 竜二5, 厚地 伸彦2, 石田 秀明4

Mio UCHIDA1, Miku UMEBASHI1, Megumi AOKI1, Hiroyasu IJYUIN2, Tetsuya KOGA2, Seiichirou TAJIMA2, Takurou KAMIYAMA3, Ryuji KAWANO5, Nobuhiko ATSUCHI2, Hideaki ISHIDA4

1天陽会中央病院検査部, 2天陽会中央病院内科, 3天陽会中央病院放射線科, 4秋田赤十字病院内科, 5天陽会中央病院外科

1Clinical Laboratory, Tenyoukai Chuo Hospital, 2Internal Medicine, Tenyoukai Chuo Hospital, 3Radiology, Tenyoukai Chuo Hospital, 4Internal Medicine, Akita Red Cross Hospital, 5Division of Surgery, Tenyoukai Chuo Hospital

キーワード :

【はじめに】
胃軸捻転症は,胃の異常な回転により嘔吐,腹痛,腹部膨満感などの消化器症状を来す比較的まれな疾患である.新生児や乳児に多く,成人急性胃軸捻転症は特にまれで,診断や治療時期の判断を誤ると致死的になることもあり,その治療方針の決定は重要である.
今回我々は遊走脾を伴った成人急性胃軸捻転症の2例を経験したので報告する.
【症例①】
84歳女性,2日前より少量の嘔吐をくり返し,38℃の発熱あり.来院当日も37℃台の微熱,腹部膨満感みられたため当院受診された.来院時の腹部超音波検査では,著明な胃拡張と脾臓が背面に移動しているのが認められた.
CT検査でも胃拡張は著明で,EG junctionと胃体部で狭窄し,冠状断面にて位置が逆転し,遊走脾も認められた.間膜軸性胃捻転症と診断され,手術目的にて入院となった.
【症例②】
72歳女性,著明な腹満感,嘔気あり来院された.腹部超音波検査では,腹部全体に著明な胃拡張を認め,脾臓は正常位置になく遊走脾を認めた.CT検査でも胃が著明に拡張し,内部には胃液や残渣が貯留していた.噴門部は右方へ,幽門部は左方へ偏位し,食道と十二指腸が交叉していた.十二指腸は腹部食道と肝十二指腸間膜に挟まれ狭窄していた.大湾と肝門を結ぶ線を軸として,大湾から見て時計回りに回転した間膜性胃軸捻転症と診断された.また,遊走脾も認められた.十二指腸球部が食道裂孔ヘルニアになっている可能性が疑われた.
その後,保存的加療を行ったが改善せず手術となった.
【考察】
今回2例ともに腹部膨満や心窩部痛,嘔吐を認め,さらに胃拡張と遊走脾が認められた.胃軸捻転症は,胃の異常な回転により消化管閉塞症状を来す疾患で,時に重篤な経過をとる.胃軸捻転の原因あるいは誘因として,胃の急性拡張,下垂,横隔膜の異常,周囲臓器からの圧迫等様々なものが知られているが,遊走脾による胃底部の牽引も一つの原因と考えられる.胃は食道および十二指腸下行脚によって基本的に固定され,更に4つの靭帯で補強されている.捻転の発生要因として,新生児や小児ではこれらの靭帯が弛緩・欠損することにより起きると報告されている.特に胃脾間膜と胃結腸間膜が重要で,いずれかを切断しない限り180℃以上胃を回転することはできないとしている.一方,成人発症例の約2/3が続発性で,原因として横隔膜弛緩症や食道裂孔ヘルニアによるものが多く,次いで特発性,胃疾患が多いと報告されている.
胃軸捻転の超音波所見の報告は少なく,胃の捻じれている場所がピーナッツの様にくびれているピーナッツサインを描出することが大切で,胃の捻じれの状態を確認することが大切と思われる.当症例では描出できなかったが,胃の回転と伴に脾臓の迷走が超音波検査で確認でき診断に有用であった.
【結語】
今回我々は,成人胃捻転症を2例経験した.腹部膨満や心窩部痛,嘔吐を認め,さらに胃拡張と遊走脾が認められた場合は本疾患も鑑別診断のひとつとして考慮し検査することが重要だと考えられた.