Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 工学基礎
定量診断① 

(S493)

音響インピーダンスを指標としたNASHの脂肪種同定への基礎検討

A basic study to identify the type of the fatty acids in NASH liver

伊藤 一陽1, 吉田 憲司2, 入江 奏1, 丸山 紀史3, 山口 匡2

Kazuyo ITO1, Kenji YOSHIDA2, So IRIE1, Hitoshi MARUYAMA3, Tadashi YAMAGUCHI2

1千葉大学大学院工学研究科, 2千葉大学フロンティア医工学センター, 3千葉大学医学研究院

1Graduate School of Engineering, Chiba University, 2Research Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University, 3Graduate School of Medicine, Chiba University

キーワード :

【目的】
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)にかかる患者数は,メタボリックシンドローム患者数の増加に伴い近年増加しているが,肝硬変や肝癌に進行する可能性があるため,早期診断が必要とされている病気の一つである.しかし,超音波診断装置を用いた診断においては,脂肪肝とNASHを弁別できていないため,確定診断には肝生検を用いざるを得ないのが現状である.
そこで本研究では,NASHの発生機序の1つである遊離脂肪酸(FFA)に着目した.エコー信号の性質を決定する主要因の一つである,生体組織固有の音響インピーダンスに着目し,基礎検討として,種類の異なる脂肪酸溶液および,それらを添加した培養細胞について,高分解能の振動子を用いて計測および解析を実施した.
【対象と方法】
計測は,5種類の脂肪酸(パルミチン酸・オレイン酸・パルミトオレイン酸・リノール酸・αリノレン酸)を溶媒に溶かして作製された脂肪酸溶液,およびこれらを,培養したヒト肝癌細胞株Huh-7に添加し,ホルマリン固定することによって作製された培養細胞モデルに対して実施した.
方位分解能が20μmである中心周波数80 MHzのPVDF-TrFE振動子をバイオ超音波顕微鏡システム(AMS-50SI改,本多電子株式会社)に組み込んで音響インピーダンスの計測を行った.ポリスチレン上に設置したポリプロピレンチューブ内に注入された脂肪酸溶液およびポリスチレンプレート上に培養したHuh-7を,水を介して80 MHzの振動子を下から走査することでそれぞれ試料表面からのエコー信号を取得し,音響インピーダンスを算出することで,データを取得した.また,エコーデータは2.4 mm×2.4 mmの範囲を300 pixel×300 pixelで取得し,各ピクセルのデータは8 bitのデジタイザを用いて2 GHzでサンプリングされている.
解析にあたっては,取得されたデータから平均値±標準偏差を算出し,それらに対して一元配置分散分析を実施した.
【結果と考察】
脂肪酸溶液での計測においては,濃度によって各脂肪酸による音響インピーダンス値に変化はあるが,変化の割合は極めて小さくなった.しかし,溶媒が脂肪酸の種類によって異なることから,酸そのものの性質を知るためには,溶媒の影響をキャンセルし,計測及び解析をしていく必要があると考えられる.また,培養細胞の計測においては,特にオレイン酸を添加した場合の値が他の種類と比較しても極めて低値であることから,他の脂肪酸を添加した場合とオレイン酸を添加した場合は弁別できるということが示唆された.
さらに,脂肪酸溶液での計測結果と培養細胞の計測結果を比較した場合,必ずしも音響インピーダンス値の違いの関係性は同じ傾向にはない,ということが考えられる.
現在,これらの検討を踏まえて,新たなアプローチでの検討を試みている.