Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 運動器
シンポジウム 運動器2 運動器エコーの現状と将来を医師・臨床検査技師・理学療法士が熱く語る

(S399)

理学療法士が治すべき関節拘縮の超音波評価

Ultrasonographic evaluation of the joint contracture that physical therapists should cure

林 典雄

Norio HAYASHI

中部学院大学理学療法学科

Department of Physical Therapy, Chubu Gakuin University

キーワード :

【目的】
整形外科領域のリハビリテーションに携わる理学療法士にとっては,観血的治療であれ保存的治療であれ,その後のリハビリテーションの大きなテーマが,関節拘縮の改善であることは間違いない.関節拘縮に対する運動療法を考える際には,その基礎学問を関節機能解剖学に置きつつ,不動ならびに炎症後の組織修復との兼ね合いの中で,病態を考察することが必要である.近年の鮮明な超音波画像は,関節拘縮を視覚化し,加えて,関節運動をリアルタイムに観る動態観察は,その使い方によっては可動域制限の原因を同定することも可能である.本発表の目的は,肩関節関節拘縮に関する我々の研究結果をレビューし,現在の取り組みについて報告することである.
【伸張障害に対するエコー評価】
肩関節障害の一般的な病態として腱板断裂があるが,「腱板断裂=疼痛発生」ではなく,世の中には無症候性腱板断裂例が多く存在する.症候性腱板断裂例,無症候性腱板断裂例,健常例で腱板の組織弾性を検討した我々の結果では,症候性腱板断裂症例で棘下筋,小円筋の組織弾性が有意に硬く,無症候性腱板断裂例と健常例では有意差が無いことがわかった.また,両筋肉の伸張性の改善を目的とする運動療法により,ほとんどの例で外科的処置を要することなく疼痛の寛解が得られることも明らかとなった.すなわち,後方腱板筋の硬さを起因とする骨頭求心性の破綻と疼痛とが関連している可能性があり,腱板断裂症例に対する治療の第一選択は運動療法を中心とした保存療法を選択すべきと考えられる.「伸張障害」の主たる対象は筋肉であり,その組織弾性が評価できるエラストグラフィー機能は,今後の運動器リハビリテーションの発展を左右する重要なツールとなることは間違いない.
【滑走障害に対するエコー評価】
「滑走障害」の評価には,各走査で観察できる組織間の階層構造が癒着により不明瞭となる所見に加え,運動中に生じる組織間の滑動状態の動態観察が極めて重要である.例えば,上腕二頭筋長頭腱(LHB)の短軸走査を通して腱板疎部を観察すると,棘上筋腱,肩甲下筋腱,LHB,肩峰下滑液包が明瞭なコントラストの中で区別することができる.同部に癒着が存在すると,各組織全体に雲がかかったような画像となり,各組織間の境界が不明瞭となる.また烏口肩峰アーチ周辺の癒着を見る際には,烏口肩峰靭帯の長軸走査下に肩関節回旋運動を観察する方法が有用である.この観察方法はHawkins impingement testをエコー下に評価する方法であり,subacromial impingementであるのかsubcoracoid impingementであるのかが判別できる以外に,回旋に伴う腱板の移動と烏口肩峰靭帯とが一体化して挙動する癒着所見も観察できる.加えて最近注目しているのが,各筋腱の間や骨との間に存在する脂肪筋膜組織の存在である.今西はこれら脂肪筋膜組織を,外力から深部組織を守る防禦脂肪筋膜系(PAFS)と筋骨格系の運動の潤滑的役割を果たす潤滑性脂肪筋膜系(LAFS)に分類している.我々は棘下筋と肩甲骨ならびに後方関節包との間に介在する脂肪組織が,肩関節運動中に機能的に変形しながら境界潤滑機能を果たしている可能性について報告し,拘縮肩症例ではこの機能が低下していることを報告した.つまり,我々が対象とする「滑走障害」には,筋腱組織間に存在するLAFSの変性も含めて検討すべきである.
【結論】
運動器エコーを理学療法分野で更に発展させるには,関節拘縮の評価並びに効果判定に積極的にエコーを応用していくべきである.