Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 泌尿器
ワークショップ 泌尿器2 泌尿器科領域の挑戦的研究

(S368)

ソノウレスログラフィーを用いた前立腺部尿道の所見と排尿機能との関連

Morphological and functional evaluation of prostatic urethra using retrograde sonourethrography with jelly injection

皆川 倫範, 石塚 修

Tomonori MINAGAWA, Osamu ISHIZUKA

信州大学医学部泌尿器科学教室

Uriology, Shinshu University

キーワード :

尿道の形態を評価するモダリティとして,尿道鏡,尿道造影,MRIが挙げられる.しかし,尿道鏡の客観性は乏しく,尿道造影では他臓器との位置関係が不明瞭である.また,通常のMRIでは尿道の内腔を評価することはできない.一方,ソノウレスログラフィーは,排尿時あるいは生理食塩水などを注入した状態で尿道を観察する超音波検査の技法である.現在我々は,ソノウレスログラフィーを用いて前立腺部尿道の形態を観察し,その所見と排尿障害との関連について研究を行っている.まず,前立腺肥大症の病態は,下部尿路の閉塞が本態である.閉塞のメカニズムとして,単純な物理的な狭窄だけでなく,αアドレナリン受容体等を介した機能的閉塞や前立腺組織の質的変化に伴った弾力性・伸展性の低下,そして肥大結節によって歪められた形態学的な閉塞が関与していると思われる.なかでも我々は,歪みなど形態学的な閉塞に注目をしている.実際,形態学的な評価の重要性はいくつかの報告がある.膀胱内に突出した前立腺体積や後部尿道角(膀胱後壁と前立腺部尿道の角度)などが,主に経腹超音波検査で検討されているが,経腹超音波検査では評価が困難な場合が少なくない.その点,ソノウレスログラフィーを用いて観察すると,前立腺部尿道の形態には実に様々なバリエーションがあることが分かる.尿道鏡と異なり,尿道径や前立腺小室をメルクマールとした尿道長の測定など,定量的なパラメーターの測定が可能である.そして,後部尿道角以外にも前立腺部内部の屈曲や非対称の腺腫に歪められた尿道の観察なども可能である.そこで我々は前立腺部尿道の形態学的パラメーターと排尿障害との関連について検討を行っている.対象は,経尿道的手術前の前立腺肥大症の患者と,根治手術前の前立腺癌の患者である.手術直前に全身麻酔下で,ソノウレスログラフィーを行う.経直腸超音波プローブで矢状断と軸位断とで観察をしながら,シリンジを用いて尿道に滅菌ゼリーを20ml注入した.得られた所見を超音波検査装置のハードディスクドライブに画像を記録し,検査の後に解析を行った.主要測定項目は前立腺部尿道長,前立腺部尿道径,後部尿道角で,前立腺肥大症群と前立腺癌群とで比較を行った.また,各パラメーターと国際前立腺症状スコア(IPSS),最大尿流率,残尿との相関に関しても検討を行った.その結果,前立腺癌群(26症例)に比べて,前立腺肥大症群(13症例)において縦尿道径が長いという結果になったが,後部尿道角には有意な差を認めなかった.また,後部尿道角と尿道縦径にはIPSSとの相関を認め,後部尿道角と最大尿流率とに相関を認めた.尿道縦径と残尿とに相関を認めた.結語として,ソノウレスログラフィーは尿道を詳細に観察することが可能で,前立腺部尿道径など従来のモダリティでは測定できない詳細な解剖学的パラメーターの評価が可能である.そうすることにより,直線的な尿道,扁平な尿道,屈曲した尿道などを客観的かつ定量的に評価することが可能となり,尿道形態と排尿障害の関連性を見出せる.本研究においては,後部尿道角よりむしろ尿道の縦径,つまり尿道の扁平化が排尿に強く関わることが示唆された.また,少なくともソノウレスログラフィー上では,前立腺肥大症では尿道径の短縮,つまり物理的狭窄を認めないという結果であった.ソノウレスログラフィーを用いた更なる研究により,排尿と尿道形態の関連が明らかになれば,新たな治療法の開発や適切な治療の選択などに役立つ可能性がある.