Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 泌尿器
パネルディスカッション 泌尿器 女性骨盤底機能の超音波診断

(S362)

膀胱頸部の発育と破綻の形態的特徴とその破綻の原因

Morphological characteristics of growth and the failure of the bladder neck, and the causes of the failure

菅谷 公男

Kimio SUGAYA

北上中央病院泌尿器科

Urology, Kitakami Central Hospital

キーワード :

【目的】
腹圧性尿失禁では膀胱頸部の下垂からレントゲン像では後部尿道膀胱角の開大として捉えることができ,膀胱超音波検査では経腹的に膀胱頸部の狭小化がみられる.一方,女児,無症候性膀胱三角部炎や尿道症候群でも膀胱頸部の狭小化がみられることがある.そこで,年齢と膀胱頸部狭小化の関係や,無症候性膀胱三角部炎,尿道症候群と腹圧性尿失禁の患者で膀胱頸部の狭小化の程度を比較してみた.また,女性では三尖弁閉鎖不全の頻度が高く,骨盤うっ血状態となることが考えられる.そこで,女性の三尖弁閉鎖不全に伴う下大静脈逆流の有無と泌尿器疾患の関係を検討した.
【方法】
下部尿路症状のない女児・女性(0-29歳,74例)を対象に,臥位での経腹的超音波検査で膀胱容量100ml未満のときの膀胱縦断面像において膀胱頸部で膀胱前壁と後壁(三角部)のなす角度(膀胱前後壁角)をもとめ,年齢との関係を検討した.また,成人女性で正常膀胱(40例,平均54歳),無症候性膀胱三角部炎(41例,平均54歳),尿道症候群(50例,平均56歳),保存的療法有効の腹圧性尿失禁(51例,平均58歳)と保存的療法無効の腹圧性尿失禁(28例,平均54歳)の合計210例の膀胱前後壁角をもとめ,群間で比較した.さらに,201例の女性の三尖弁閉鎖不全に伴う下大静脈逆流の有無を経腹的カラードプラで調べ,泌尿器疾患と下大静脈逆流の関係をもとめた.
【結果】
思春期までの女児では膀胱前後壁角は90-180度(平均135度)の幅の中にあったが,思春期以降は140-180度(平均164度)となっていた.成人女性では,膀胱前後壁角は平均158度であったが,無症候性三角部炎147度,尿道症候群140度,保存的療法有効の腹圧性尿失禁120度,保存的療法無効の腹圧性尿失禁109度といずれの群間にも有意差があった.下大静脈の逆流は68%の女性にみられ,腹圧性尿失禁では23例中22例(96%)に,膀胱瘤でも12例中10例(83%)にみられた.
【結論】
女児の膀胱前後壁角は狭小化している例が少なくなく,そのような女児では膀胱頸部トーヌスが弱いと考えられる.しかし,思春期以降には膀胱前後壁角は大きく正常化することから膀胱頸部トーヌスは高まる.また,無症候性膀胱三角部炎,尿道症候群や腹圧性尿失禁では膀胱前後壁角が狭小化しており,この順に狭小化も著明となることから,これら疾患は原因を同じくする一連の疾患と考えることもできる.一方,腹圧性尿失禁と膀胱瘤では下大静脈逆流の頻度が高かった.下大静脈逆流は立位で骨盤うっ血状態を呈すると考えられる.したがって,腹圧性尿失禁や膀胱瘤の女性は先天的に膀胱頸部のトーヌスの弱い状態があり,成人後には三尖弁閉鎖不全に伴う下大静脈逆流から骨盤うっ血状態となり,膀胱頸部および骨盤底筋群の機能障害として腹圧性尿失禁や膀胱瘤を発症することが考えられる.つまり,腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱の原因には先天的要素や進化的要素が加味されている可能性がある.