Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 乳腺甲状腺
シンポジウム 乳腺甲状腺1 乳腺腫瘍の病理分類と超音波診断(JABTSとの共同企画)

(S326)

WHOと日本乳癌学会分類との考え方〜新しい肉眼分類の提唱〜

Conceptions between the WHO classifications and general rules of the Japanese Breast Cancer Society〜A new proposal of macroscopic classification〜

山口 倫

Rin YAMAGUCHI

久留米大学医学部附属医療センター臨床検査室・病理診断科

Department of Pathology and Clinical Medicine, Kurume University Medical Center

キーワード :

組織学的分類は,これまで癌診断,癌治療の発展に大きく寄与してきた.現在,その世界標準となっているものはWHO分類である.我が国では,独自に各臓器の学会が主となって取扱い規約の組織分類が作製されている.取扱い規約は基本的に日本語で記載されていることから簡便であり,臨床医,病理医,画像診断医らに広く汎用されている.取扱い規約組織分類はWHOのアップデート時に改訂が行われ,WHOの併記やWHOに準ずる分野もあるが,しばしばWHOとのダブルスタンダードや乖離が問題となっている.特に乳癌は日本乳癌学会規約組織分類(以下JBCC)の独自性が高く,浸潤癌に対しWHOとJBCC間に大きな相違が存在する.現在WHOは浸潤性乳癌(invasive carcinoma)を,特殊型と非特殊型(no special type: NST)の二群に大別する.一方,JBCCは浸潤癌の約6〜8割を占める,浸潤性乳管癌に重きを置き,大きく「乳頭腺管癌」「充実腺管癌」「硬癌」の三亜型に分類する.これらは大凡WHOの非特殊型に相当するが,実際にはこの三亜型を厳密に組織分類することは容易でないことが多い.
近年,遺伝子学的分野において乳癌は大きく進歩し,予後を反映する分類として遺伝子発現パターンによる“サブタイプ”という考えが根付いてきた.“サブタイプ”は主に,元々比較的予後の良いluminal乳癌,予後不良なHER2乳癌,トリプルネガティブ:TN(basal-like)乳癌などに分類される.これら“サブタイプ”に対してホルモン剤や抗HER2剤,抗癌剤などを単独,あるいは組み合わせて,個別化治療がなされている.現在,この概念は広く世界の乳腺診療医に浸透しているが,一般的には組織学的分類と繋がっているとは言い難い.
WHOは基本的に組織型を基に,グレードや“サブタイプ”で分類するという捉え方である.一方,JBCCは,前述のごとく組織形態や進展様式で分類した三亜型が,それぞれ高分化,中分化,低分化に相当し,分化度を表すとしている.しかし“サブタイプ”やWHOの概念から,乳頭腺管癌に比較的早期のluminal乳癌やcomedoを有するHER2乳癌が,充実腺管癌にはluminal(solid-papillary CA)乳癌とbasal-like(TN)乳癌が,硬癌には管状癌類似や小葉癌類似のluminal乳癌が比較的多く含まれることが明らかになった.すなわち,予後の点で両端にある癌が各型に分布し,三亜型が分化度を表すという考えには矛盾点が存在する.従って,腫瘍外郭進展の形状と腫瘍内部の組織構築による分化度,さらに“サブタイプ”の概念をひとまとめにするのは困難である.これがWHOとJBCCの考えがまとまらない大きな理由であると考える.
しかし,本邦の三亜型組織分類は腫瘍の形態的側面から画像との整合性が高く,臨床医の組織像の理解という点でもこれまで大きな役割を果たしてきた.そこで本邦の三亜型組織分類の概念を取り入れ,以下の提案を行いたい.組織学的分類はWHO分類をベースとし,これに腫瘍の形状を表す「肉眼分類」を加えることである.つまり,肝癌の規約分類のごとく肉眼分類として,このJBCC三亜型分類の概念を残すという考えである.本シンポジウムではWHOとJBCCの組織分類の考えや相違を述べるとともに,Tsunoda Hら(Breast Cancer. 2008)が報告した超音波分類A1,A2,A3,Mix型を反映する,肉眼分類を提唱したい.具体的には「腫瘤不明瞭型」「腺管増殖型(≒A1)」「充実増殖型(≒A2)」「硬性増殖型(≒A3)」「混合型(≒Mix)」「嚢胞型」「その他」であり,画像との整合性を保つことができると考える.