Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
パネルディスカッション 産婦人科2 卵巣腫瘍の悪性・良性の鑑別法

(S316)

「卵巣腫瘍の悪性・良性の鑑別法」〜ドプラ法,超音波造影法を用いて〜

Diagnosis of malignant ovarian tumor using Doppler and Contrast-enhanced ultrasonography

梅津 朋和

Tomokazu UMEZU

医療法人豊田会刈谷豊田総合病院産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Kariya Toyota General Hospital

キーワード :

卵巣腫瘍を発見した際,治療法を決定するにあたり良性か悪性かを判別することが非常に重要である.特に,腹腔鏡手術が普及した今日では,卵巣腫瘍の術前診断が術式選択の重要なポイントになる.
卵巣腫瘍の画像診断法には主に超音波,MRI,CT検査がある.超音波断層法は婦人科画像診断の最も基本となる検査法であるが,再現性,客観性に乏しい点などから卵巣腫瘍の術前良悪性診断にはMRI,CT検査が重要視される傾向がある.しかしながら超音波断層法は放射線被曝や疼痛を伴わない非侵襲性,簡便性,撮影時間の短さ,リアルタイムの画像が得られ,しかも安価であるといった長所があるため,超音波断層法の診断能力の向上が研究されている.近年では超音波ドプラ法や超音波造影法を用いた卵巣腫瘍の良性・悪性の鑑別が試みられている.
一般に悪性腫瘍では血管新生によって局所の血流が豊富になるため,腫瘍内の血流評価は卵巣腫瘍の術前良悪性診断において重要となる.悪性腫瘍では血管新生が顕著なことから,末梢血管抵抗の低下に伴いパルスドプラ法でresistance index(RI)が低値になると言われていた.Kurjakらは,RI<0.42以下であればほぼ悪性と報告しているが,その後,数値のオーバーラップが指摘された.また腫瘍内の血流速度に着目した検討も行われた.Hataらは収縮期最高血流速度PSV(peak systolic velocity)の上昇が最も重要であると報告している.しかしドプラ信号の検出感度の安定性や精度には不安定要因があり,計測値の信頼性には多少問題があることは否定できない.
超音波造影剤は微小気泡を含んだ物質で,超音波に照射されることで微小気泡が消失,共振などの変化を起こし,そのことで造影効果が生じる.第一世代造影剤のレボビストは我が国では1999年に発売され,婦人科領域では子宮卵管造影にも使用されたが,高音圧造影剤であるため持続時間が短く,分解能が低いという欠点があった.2007年に難溶性のガス(ペルフルブタン)を用い,リン脂質のシェルを持った第2世代超音波造影剤ソナゾイド®が登場した.低音圧造影剤のため造影効果時間が長く,分解能が高いのが特徴で,現在では肝臓や乳腺領域での診断のために広く利用されている.また消化器や泌尿器科領域での研究報告も認められるが,産婦人科領域での報告はいまだ少ない.そこで我々は,卵巣腫瘍患者でソナゾイド®を用いた血流評価で良悪性診断を行い,従来のドプラ法による血流評価での良悪性診断と比較検討を行った.
【方法】
2010年1月から12月の間,名古屋大学医学部附属病院で手術された25人の卵巣腫瘍(良性5例,悪性20例)患者を対象とした.ソナゾイド®の使用に当たっては倫理委員会の承認を得て,全ての症例でインフォームドコンセントを行い,文書での同意を得た.通常のドプラ法を行った後,ソナゾイド®を経静脈投与し,2人の観察者が血流評価を行った.血流を認める症例を陽性とし,術後病理結果と比較して,感度,特異度を算出し,通常のドプラ法と比較検討した.
【結果】
全例副作用無く,超音波造影法を施行できた.カラードプラ法では偽陰性例を9例含み,感度53%,特異度100%,パワードプラ法では偽陰性例を5例含み,感度は74%,特異度は83%であったのに対し,ソナゾイド®を用いた超音波造影法では偽陰性例は1例で感度は95%,特異度は83%であった.
超音波造影法は卵巣腫瘍の良性・悪性の鑑別には有用性と思われるが,観察者の主観性が入ってしまい,再現性の問題は依然残ってしまっている.近年ではPeak intensityやwash-out timeに着目した研究も行われている.
超音波造影法は卵巣腫瘍の良性・悪性の鑑別において超音波検査の長所である低侵襲,簡便性を維持しながら診断率の向上に寄与するものと思われた.