Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
パネルディスカッション 産婦人科1 妊娠初期胎児スクリーニングのあり方

(S314)

妊娠初期胎児スクリーニング検査

Ultrasound screening of the fetus in the first trimester of pregnancy

谷垣 伸治1, 西山 深雪2, 菊地 範彦1, 小川 浩平1, 関口 将軌1, 小澤 克典3, 梅原 永能1, 和田 誠司3, 左合 治彦2

Shinji TANIGAKI1, Miyuki NISHIYAMA2, Norihiko KIKUCHI1, Kouhei OGAWA1, Masaki SEKIGUCHI1, Katsusuke OZAWA3, Nagayoshi UMEHARA1, Seiji WADA3, Haruhiko SAGOU2

1国立成育医療研究センター病院周産期・母性診療センター産科, 2国立成育医療研究センター病院周産期・母性診療センター, 3国立成育医療研究センター病院周産期・母性診療センター胎児診療科

1Division of Obstetrics, Center of Maternal-Fetal, Neonatal and Reproductive Medicine, National Center for Child Health and Development, 2Center of Maternal-Fetal, Neonatal and Reproductive Medicine, National Center for Child Health and Development, 3Division of Fetal Medicine, Center of Maternal-Fetal, Neonatal and Reproductive Medicine, National Center for Child Health and Development

キーワード :

妊娠初期の胎児超音波スクリーニング検査は,“正しいBPD断面の描出”のみである.
正しいBPD断面の描出とは何か.妊娠初期胎児超音波検査は,形態異常スクリーニングと遺伝学的評価に分けられる.形態異常スクリーニングとして,頭蓋冠の有無(無頭蓋症,無脳症の否定),midline echoの存在(全前脳胞症の否定)を確認することは,異論がないであろう.
一方,遺伝学的評価の代表であるNT計測は,欧米では画像の提出と定期的な講習が義務付けられた資格制度が存在し,血清マーカーと組み合わせ出生前スクリーニング検査として専門家による遺伝カウンセリングを含めシステム化されている.わが国でも計測法,カウンセリングについてトレーニングを積んだものが評価するのが理想であろう.また,遺伝学的評価については,初診時に希望の有無を確認するのが時代の趨勢である.その上で,評価を希望する例を適切な施設へ紹介することも考慮される.
ここで問題となるのは,遺伝学的評価の希望はなかったが,形態異常スクリーニングの過程で,遺伝学的評価の必要性を検者が感じた時である.当院では,初診時に遺伝学的評価の希望の有無を確認し,希望者は遺伝カウンセリングと精査を行う外来(遺伝外来)の受診予約をしている.2014年に当院一般産科外来(low risk外来)から妊娠初期に胎児の形態異常を理由として遺伝外来を紹介された例は13例であった.13例のうち,遺伝外来受診を初診時に希望していなかった例は10例であり,10例の遺伝外来紹介理由は,胎児水腫4例,無頭蓋症1例,嚢胞性ヒグローマ1例,NT肥厚の疑いが4例であった.NT肥厚以外の6例は,人工妊娠中絶もしくは子宮内胎児死亡し,NT肥厚が疑われた4例中3例に染色体異常が認められ,1例は血清マーカー検査後,妊娠継続中である.大きな嚢胞性ヒグローマや全身性の胎児水腫のような明らかな形態異常を有する例は,妊娠中期以降に見いだされた形態異常と同様の取り扱いとなり,精査に遺伝学的評価も含まれる.しかし,NTが厚いと感じる程度の例はどうであろうか.NTは染色体異常の関連だけでなく,先天性心疾患や小児外科疾患との関連も報告されていることから,遺伝学的評価が目的ではないNT計測をすべきであろうか.
超音波検査を専門とする我々の使命には,探究と啓蒙がある.NTを評価する週数では,先天性心疾患や小児外科疾患の確定診断することは限定的であるが,現在妊娠中期で行っている胎児形態異常スクリーニングを少しでも早い週数に診断し,治療にむけ努力するのは,我々に課せられた命題の一つである.一方,我が国の周産期医療の現状では,妊娠初期の診察を担っている医師全員にNT計測を要求することはカウンセリング技術を含め困難であるばかりか,医師患者関係に危険を及ぼしかねない.我々が喫緊にせねばならないことは,妊娠初期の遺伝学的評価についての希望の確認が必要であることを医療機関にひろく啓蒙し,またカウンセリングも含め希望者のニーズに応えることができる体制を構築することにある.本学会は,妊娠初期にとどまらず胎児評価のスペシャリストとしてそれを牽引する使命を持っている.
自分は,議論のたたき台として,妊娠初期胎児スクリーニング検査は以下としたい.
①自施設のスクリーニング体制を明示する
②検査前に遺伝学的評価の希望の有無を確認し,紹介も考慮する
③正しいBPD断面を描出する