Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 消化器
パネルディスカッション 消化器2 びまん性肝疾患の超音波診断

(S280)

脂肪肝の超音波診断(肝腎コントラストを用いた脂肪化のgrading)

Ultrasonographical diagnosis of fatty liver (grading of the fatty change using liver/kidney contrast)

矢島 義昭

Yoshiaki YAJIMA

黒沢病院附属ヘルスパーククリニック内科

Internal Medicine, Health Park Clinic Kurosawa

キーワード :

演者らは脂肪肝の超音波診断基準として“肝腎コントラスト”を1982年に報告した1).2010年には肝脂肪化の定量的な指標であるCTNと,肝腎コントラスト,肝血管不鮮明化,深部減衰の各所見を比較して,脂肪肝のB-mode診断を再評価して報告した2).その要点は,上記の3所見を組み合わせて肝脂肪化を3段階にgradingすることであった.すなわち,高度脂肪化(+++)は肝腎コントラスト+肝血管不鮮明化and/or深部減衰,中等度脂肪化(++)は中等度の肝腎コントラストのみ,軽度脂肪化(+)は軽度の肝腎コントラストのみとなる.問題は軽度と中等度の肝腎コントラストの区別に客観的な指標がないことである.当院では日頃より検査技師にこの基準について説明し実践を促しているが,経験の浅い検査技師ではこの区別が難しい.当院の健診で発見された肝腎コントラスト陽性の85例を対象に,まず超音波専門医がgradingをした.3群間のCTNの分布は,脂肪化(+)では51.9±5.0 HU,脂肪化(++)では40.0±8.6 HU,脂肪化(+++)では28.9±8.1 HUと,脂肪化が高度になるにつれCTNは低下した.次に超音波専門医が既に診断している症例について,認定検査技師と検査技師の両名がblindで,記録されている静止画像を診断した.一般に,経験が浅いほど過剰に判定する傾向が認められた.診断の一致率は超音波専門医vs認定検査技師では76%,超音波専門医vs検査技師では52%であった.今回用いた装置(東芝のXALIO-XG)ではbeamの入射が不十分であると深部減衰が出現し,また肥満者では腹壁の脂肪組織が原因で減衰が強くなる傾向があった.
脂肪肝はかつて組織学的に肝小葉の>50%の脂肪化と定義されていたが,その後>30%と改められた経緯がある.組織学的に小葉の脂肪滴の分布する範囲を30%,あるいは50%と判定することは多分に主観的な行爲である.肝は生理的に中性脂肪を合成し蓄積する臓器であり,何をもって病的と判断するかはその時の脂肪肝の病態理解に依存する.かつては,肝の脂肪化はそれ自体は無害であり,脂肪化だけでは肝硬変に至ることはないと考えられていた.その後に,線維化が進行して脂肪性肝硬変となりさらには発癌に至るNASHの概念が確立した.またNAFLDがメタボリック症候群における冠動脈疾患の独立した危険因子であることが明らかにされた.健診で発見されるNAFLDの35%はALTが正常であり,かつ脂肪化の程度はALT値と必ずしも相関しない.さらに,NASHでは減量によって肝の脂肪化が改善されるので脂肪化が軽度であるからといってNASHを否定することはできない.以上の観点より,肝の脂肪化の正確な定量が必ずしも診断,治療,予後につながらないことになる.
脂肪肝の画像診断のなかで,US診断はその簡便性,低侵襲性,低コストにおいて優れているが,US診断から得られる情報は他のmodalityと比較して相対的であり,脂肪化の程度を推定する客観的,定量的な情報は得がたい.しかしながら,US診断に熟練することによって半定量的な評価は可能になるものとおもわれる.メタボ検診においてNAFLDを的確に拾い上げること,またNASHの病態解明のためにも脂肪肝の超音波診断の重要性は増していくものと思われる.
【文献】
1)矢島義昭,他:脂肪肝の超音波診断(肝腎コントラストの意義について.肝臓,23:903-908,1982
2)矢島義昭,他:Differential Tissue Harmonic Imaging超音波診断装置による脂肪肝の所見-CT所見との対比による診断基準の再評価-.超音波医学37:587-592,2010