Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 循環器
ワークショップ 循環器1 low-flow low gradient ASを極める

(S250)

Low-flow low-gradient ASを極める:ASの重症度評価の問題点

Low-flow low-gradient AS: Is your severity assessment accurate?

岩永 史郎

Shiro IWANAGA

埼玉医科大学国際医療センター心臓内科

Department of Cardiology, Saitama Medical University, International Medical Center

キーワード :

大動脈弁狭窄症(AS)の重症度評価には,収縮期の最大血流速度,最大・平均圧較差,弁口面積(AVA)が用いられる.血流速度と圧較差はASの機能的重症度指標で,一回拍出量,末梢血管抵抗,左室機能,AR,貧血や腎不全,甲状腺機能など多くの因子の影響を受ける.AVAが同じでも,貧血や末梢血管拡張によって圧較差は増加する.逆に,左室収縮障害により低心拍出量となると,重症ASであっても圧較差は低くなる.これが,低流量・低圧較差AS(low-flow low-gradient AS)である.加えて,末梢血管抵抗の増加(血圧上昇),静脈還流量減少,僧帽弁狭窄や左室流出路狭窄の合併でも同様の病態を生じる.AVAは解剖学的重症度指標であり,血行動態の影響を受けにくい.しかし,心拍出量が著明に低下したAS例では圧較差のみではなく,AVAも過小評価される.強心薬であるドブタミンを負荷して,AVAが0.3 cm2以上増加し,最終的に1.0 cm2以上になれば,低心拍出による機能的ASと診断する.AVAの計測には,弁口を直接にトレースする方法と,左室流出路から狭窄部にかけて血流が何倍に加速されるかを求め,左室流出路断面積から比例計算で求める方法(連続の式)がある.トレース法では,大動脈弁短軸像を拡大表示して,弁口が最も狭く見える断面を描出する.画像をフリーズし,弁口が最も広く見える時相でトレースする.トレース法は,弁石灰化や断面ずれが誤差要因となるが,血行動態の影響を受けにくい解剖学的指標である.弁石灰化による音響陰影などがトレースを困難にするが,カラードプラ像で交連部がどこまで開口しているかを確認するとトレースしやすくなる.また,連続波ドプラ(CW)法の血流速度から求めた圧較差は,実際の圧較差を過大評価することが多い.狭窄部では血流が加速して,圧エネルギーが運動エネルギーに変換される.狭窄後に渦ができると,血流の運動エネルギーが熱となり消費されるが,渦ができにくいと圧エネルギーに再度変換される.これは圧力回復現象と呼ばれ,簡易ベルヌーイの式で圧較差を過大評価する原因となる.弁性狭窄のように板に開いた穴のような狭窄では,流れの剥離によるエネルギー損失が大きく,狭窄部で加速された血液の運動エネルギーを圧力のエネルギーに戻すことができない.狭窄出口部における圧力回復が期待できないため,縮流帯での最大流速をCW法で計測して圧較差を計算すると,狭窄で生じる実際の圧較差と近くなる.左室流出路狭窄や筋性弁下狭窄のような形状の狭窄では,流れの剥離によるエネルギー損失を生じにくい.狭窄部で加速された血液の持つ運動エネルギーが効率よく変換されて,圧力が再上昇する.狭窄による圧力損失が少なくなり,圧較差は最大流速から計算した値よりも小さくなる.日本人に多い小柄な高齢女性のASでは,左室流出路やバルサルバ洞が小さく圧較差が過大評価されやすい.CW法を用いる連続の式でも同様の問題点がある.いずれの方法を用いてもASの重症度評価においては,計測の精度を考慮しなければならない.一つの方法で評価するのではなく,複数の方法を用いて重症度を評価する必要がある.