Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 循環器
パネルディスカッション 循環器2 心房細動のエコーを極める

(S245)

非弁膜症性心房細動における無症候性脳梗塞発症の予測因子:経食道心エコーによる検討

Predictors of Silent Brain Infarction in Patients with Nonvalvular Atrial Fibrillation: A Transesophageal Echocardiographic Study

杉岡 憲一1, 上田 真喜子2, 葭山 稔1

Kenichi SUGIOKA1, Makiko UEDA2, Minoru YOSHIYAMA1

1大阪市立大学循環器内科, 2大阪市立大学病理病態学

1Department of Cardiovascular Medicine, Osaka City University, 2Department of Pathology, Osaka City University

キーワード :

【背景】
非弁膜症性心房細動例では,しばしば致死的な症候性脳梗塞を発症するが,多くは左房内血栓が原因の心原性脳塞栓によると考えられている.一方,頭部MRIによる画像診断により,詳細な無症候性脳梗塞の診断が可能となっている.非弁膜症性心房細動例を対象とした頭部MRIによる検討では,無症候性脳梗塞の発症率は洞調律例と比較して有意に高いことが明らかとなり,さらに近年,心房細動例において認知症が多いことの原因として,これらの無症候性脳梗塞の存在の関与が指摘されている.しかしながら,非弁膜症性心房細動例における無症候性脳梗塞の発症メカニズムについての研究はほとんどなされていない.今回,我々は,経食道心エコーを用いて,非弁膜症性心房細動例における無症候性脳梗塞の予測因子について検討した.
【方法】
対象は,経食道心エコーを施行予定の神経学的に無症状の非弁膜症性心房細動103例(平均63歳,男性76例).すべての症例において無症候性脳梗塞を頭部MRIにて評価した.また,経食道心エコーにて,左房内異常(左房内血栓およびもやもやエコー)と大動脈弓部のcomplexプラーク(4mm厚以上,潰瘍形成もしくは可動性を有するプラーク)を評価した.無症候性脳梗塞の存在の予測因子について,ロジスティック多変量解析にて評価した.
【結果】
103例のうち,31例(30%)において頭部MRIにて無症候性脳梗塞を認めた.それらの多くは多発性(61%)で,直径15mm未満の小梗塞(84%)であった.経食道心エコーにより,左房内異常を18例(もやもやエコー18例,左房内血栓2例)に認めた.また,大動脈弓部プラークを42例において認め,そのうち19例がcomplexプラークであった.無症候性脳梗塞を有する群では,有しない群と比較して,左房内異常(42%vs. 7%,P<0.001)および大動脈弓部complexプラーク(45%vs. 7%,P<0.001)を有意に高率に認めた.単変量解析では,年齢,慢性腎障害,CHADS2スコア≥2,左室収縮能低下(左室駆出率<50%),左房内異常,大動脈弓部complexプラークが無症候性脳梗塞の関連因子であった.これらの有意な関連因子を含めた多変量解析によると,左房内異常(OR6.44,95%CI: 1.28-32.44,P=0.024)および大動脈弓部complexプラークの存在(OR6.05,95%CI: 1.33-27.46,P=0.019)が,無症候性脳梗塞の独立した予測因子であった.
【結論】
経食道心エコーで検出されたもやもやエコーをはじめとする左房内異常および大動脈弓部complexプラークは,無症候性脳梗塞の存在と密接な関連を認めた.これらの結果により,左房内および高度大動脈弓部動脈硬化病変に形成された微小血栓が,非心房細動例の無症候性脳梗塞の重要な原因であることが示唆された.したがって,これらの経食道心エコー所見を認める際には,より積極的な抗凝固療法が必要であると考えられた.