Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム 基礎2 超音波マルチモダリティーイメージング(基礎技術研究会・光超音波画像研究会と共同企画)

(S225)

炎症およびがんのイメージングを目的とした光音響効果増強の基礎的検討

Enhancement of Photoacoustic Effect for Imaging of Inflammation and Cancer

西條 芳文1, 山﨑 玲奈1, 小笠原 康悦2, 壹岐 伸彦3, 田村 昂作3

Yoshifumi SAIJO1, Rena YAMAZAKI1, Kouetsu OGASAWARA2, Nobuhiko IKI3, Kousaku TAMURA3

1東北大学医工学研究科, 2東北大学加齢医学研究所, 3東北大学環境科学研究科

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University, 3Graduate School of Environmental Studies, Tohoku University

キーワード :

光音響効果は1880年にグラハム・ベルによって発見された,光エネルギーを吸収した分子が熱を放出し,その熱による体積膨張により音響波を発生する現象のことである.近年,これを応用した光音響イメージングが発展しつつあるが,その主な目的は近赤外光を利用した血管の可視化である.特に酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光スペクトルの違いを利用した動静脈の可視化や酸素飽和度の測定は,腫瘍血管の検出や代謝の評価に大きく貢献している.
このように,いわば天然の光音響効果増強剤である血液(主に赤血球)が血管のコントラストを増強させるのに対し,生体内の種々の細胞の活動に応じたコントラスト剤を投与することで,炎症やがんに特異的なイメージングが可能である.光音響増強効果を有する物質としては,金ナノ粒子やインドシアニングリーンなどの色素が知られている.これらは超音波コントラスト剤よりもはるかに小さな粒径であるので,血管を増強するのではなく,細胞内に取り込まれて細胞を増強させることが大きな特徴である.
本研究では,アスペクト比により特異的な吸収スペクトルを生じる金ナノロッドをマクロファージに貪食させることによる炎症の可視化,pHや体内環境の変化に応じて吸収スペクトルを大きく変化させる金属錯体によるがん細胞自体の可視化について,基礎的な検討を行ったので報告する.
光音響顕微鏡システムは,波長1064 nmのダイオードレーザーを光学系により対象物に上から集束照射し,発生した超音波を対象物の下に設置した中心周波数10 MHzの平面PZT振動子で受信,試料と振動子を保持した台を2次元走査することで,対象の2次元光音響イメージングが可能である.
マウス骨髄由来のマクロファージを1064 nm付近に吸光ピークを持つ金ナノロッドと共に18時間培養し,マクロファージに金ナノロッドを貪食させた.比較のため,金ナノロッドを貪食させたマクロファージとさせないマクロファージを別のウェルに入れて光音響信号を観測した.結果,金ナノロッドのみから光音響信号が検出された.
次いで1064nm付近に吸収体を持つパラジウム錯体のシクロデキストリン包接体を用いて光音響信号検出を試みた.肉眼的にも色が異なったが,光音響信号も大きく異なり,このような錯体ががん細胞内で色調を変化させる現象を捉えることが示唆された.
金ナノロッドおよび金属錯体の光音響信号検出に成功した.これらの手法は細胞自体の光音響信号を増強するので,腫瘍血管や血流に依存せずに炎症およびがんを検出する手法として有用であると考えられた.