Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション 領域横断1 超音波検査におけるパニック値(像)(第40回日本超音波検査学会との共同企画)

(S203)

腹部超音波健診におけるパニック像

Routine Sonographic Images Showing Abnormalities:a Technician’s Experience

杉田 清香

Kiyoka SUGITA

医療法人財団医親会海上ビル診療所医療部画像検査科

Sonographer, KAIJO BLDG. CLINIC

キーワード :

【はじめに】
健診領域の超音波検査は,健常者あるいは健常と思われる無症状の方を対象とすることから,今回のパニック像の定義「生命危機を示唆する病態,緊急治療を必要とする病態を示唆する所見,ただちに医師に報告すべき所見」が発見されるケースは極めて低い.急性疾患は皆無に等しく,緊急像の概念は他の臨床領域と趣を異にするものの,通常健診は年1回の受診を基本とし,このタイミングで悪性疾患を中心とするパニック像を発見できれば,生命の危機を及ぼすシリアスな状況を避けられる可能性は高い.今回の企画によって健診領域で拾い上げるべき緊急異常像をより明確にすることは意義深い.
【当院実績】
当院における健診業務のほぼ100%を占めるいわゆる「企業健診」は,労働安全衛生法に基づき事業主が労働者に実施するものである.その受診メニューのうち,超音波検査は法定項目外であることから,導入の可否・対象臓器・対象年齢などは事業主や産業医等に委ねられる.当院における超音波健診の現状も契約企業によってまちまちで,30歳代以上を対象とした腹部領域の逐年受診契約が大半を占める.2013年度当院健診受診者4万人余りのうち,のべ2万5千人が超音波健診を受診し,うち上腹部領域が約8割を占め,乳腺は2割弱,下腹部・心臓・頚動脈は年間数件程度とごく少数であった.これは,上腹部以外の領域はオプション扱いとする企業が多く,希望した受診者が追加費用を自己負担しなければならないことに起因する.上腹部超音波健診の発見率は,胆嚢ポリープ(28.8%),肝嚢胞(24.5%),脂肪肝(22.2%),腎嚢胞(21.4%),肝血管腫(10.8%),腎結石(8.4%)の順に高く,すべて良性疾患である.
【当院における緊急異常像の検出率】
現在当院では,日本消化器がん検診学会・日本超音波医学会・日本人間ドック学会が定めた「腹部超音波検診マニュアル」をベースにした独自の判定基準を用いている.本マニュアル中の「D1(要治療)・D2(要精査)判定」に相当するものを「G判定」と呼び,健診領域のパニック像と位置付け,直ちに健診結果を事業主あるいは受診者本人へ報告するとともに,医療機関への早急な受診を勧めるものと定めている.2013年に発見されたG判定は317件(1.69%)で,主なものに膵嚢胞60例(0.32%),肝腫瘍32例(0.17%),胆嚢壁肥厚16例(0.09%),胆のう腫瘍15例(0.08%),胆嚢結石による胆嚢壁評価不良15例(0.08%),主膵管拡張14例(0.07%),水腎症14例(0.07%),副腎腫瘍13例(0.07%),膵腫瘍11例(0.06%),腎腫瘍10例(0.05%),腹部大動脈瘤6例(0.03%),総胆管結石3例(0.02%)などがあり,新規発見所見のみならず,逐年受診者の経過観察中に認めた変化を捉えた例を多く含む.ほかに上腹部検査中に偶然発見された下腹部領域の所見など,検査対象外とされる部位の異常所見がパニックとして扱われるケースがある.検査の際は僅かに自覚している症状やこの1年間に起きた身体的イベントを聞き出しながら,治療や精査が必要な疾患を拾い出すことに努めている.
【おわりに】
健診領域における無症候性パニック像を捉えるポイントとして,新規受診者に見られる悪性疾患を中心とした緊急異常像を見逃さないこと,逐年受診者の前回像との変化を見逃さないことに加え,描出困難例の慎重な取り扱いにあり,この点は健診領域に特徴的とも言える.今回のパネルディスカッションでは,超音波検査におけるパニック像を検討することにより,健診機関に従事する技師が日頃遭遇する機会の少ない緊急異常像を再確認するとともに,無症状の健常者に潜む緊急を要する所見についての認識を深める場となることが期待される.