Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション 領域横断1 超音波検査におけるパニック値(像)(第40回日本超音波検査学会との共同企画)

(S202)

超音波検査におけるパニック値(像) 血管領域

The evaluation of panic value on ultrasound examination withVascular diseases

山本 哲也

Tetsuya YAMAMOTO

埼玉医科大学国際医療センター中央検査部

Central Laboratory, Saitama Medical University International Medical Center, Saitama, Japan

キーワード :

【はじめに】
一般に,生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値で直ちに治療を開始しなければならない検査結果をパニック値1)と称する.但し,超音波検査では,すでにその病態が強く予想されている状態での検査は含まれないことが多く,予期せぬ病態が偶然発見された場合,生命が直接的に危ぶまれなくてもパニック値としている.その病態は病院の規模や診療科,専門性や状況によって若干異なり,各施設で決められている.本講演では,当院における血管領域のパニック値と特徴的エコー所見を紹介する.
【パニック値(像)】
当院では大動脈解離や大動脈瘤破裂,急性の動脈閉塞,浮遊型の深部静脈血栓,可動性を有する病変などを検出した初回の検査をパニック値としている.
【特徴的エコー所見と注意点】
1)大動脈解離:フラップと呼ばれる可動性を有する線状構造物によって,本来の内腔側である真腔と解離腔である偽腔の二腔構造が見られる.解離は限局することもあるが,比較的広範囲にわたり大動脈分枝へ進展する場合もある.解離形態によっては,分枝血管の血液は偽腔から供給されることもあり,分枝血管に連絡する大動脈内腔(真腔と偽腔)の鑑別が必要である.解離診断時,多重反射やサイドローブ像などフラップ類似のアーチファクトに留意したい.
2)動脈瘤破裂:仮性瘤では破裂孔や噴出血流を検出することにより直接診断できるが,大動脈周囲に流出した血液の血腫像から間接的に診断されることが多い.上行大動脈の破裂では心臓周囲,弓部では縦隔,下行では胸腔内に血液貯留像が観察される.また,腹部では血管周囲血腫と瘤内部血栓や炎症性の大動脈壁肥厚との区別に留意したい.
3)急性の動脈閉塞:急激に末梢血管の虚血症状を訴える場合,急性動脈閉塞を疑う.急性動脈閉塞は局所での血栓形成による血栓症(動脈硬化症の急性増悪)と血栓が遊離して末梢血管に詰まる塞栓症がある.通常,前者では動脈硬化性病変が多くみられるが,後者では血流が突然に途絶したエコー像を示し,閉塞部中枢端に拍動性の血流鬱滞像が認められる特徴がある.また急激に発症するため側副血行路の発達が乏しく,閉塞部の中枢側でも血流速の低下や,血流持続時間が短縮していることが多い.Bモード単独では閉塞部のエコー輝度が低く血栓を見落とす危険性もあり,カラードプラを併用した観察が大切である.
4)浮遊型の深部静脈血栓:血栓の中枢側広範囲が血管壁に付着せず,浮遊したエコー像が得られる.また深呼吸や下肢を動かすことで可動性が見られることが多く,肺塞栓の高リスク像として注意を要する.観察時に注意することは,安静仰臥位で検査すると浮遊しているようには見えず誤認することである.患者の全身状態に合わせて安全面に留意し,静脈を拡張させて確認することが大切である.
5)可動性を有する病変:血管内に可動性を有する血栓や腫瘍,プラーク等が観察される場合,遊離しやすい状態と考えられる.頸動脈のJellyfish plaqueは脳梗塞のhigh risk plaqueであり留意して観察したい2).観察時,注意点は画像を拡大し探触子をしっかり固定させた状態で血管内部をゆっくり確認することである.
【まとめ】
パニック値が得られた場合,迅速・的確に検査を進め依頼医に確実に伝えなければならい.そのためにはパニック値の特徴的エコー所見と観察ポイント,注意点を念頭において検査することが大切である.
【引用】
1)Lundberg GD: Panic values five years later. Lab Observer 9: 27〜34,1977.
2)Kume,S.et al.Vulnerable carotid arterial plaque causing repeated ischemic stroke can be detected with B-mode ultrasonography as amobile component:Jellyfish sign.Neurosurg Rev.2010.