Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション 領域横断1 超音波検査におけるパニック値(像)(第40回日本超音波検査学会との共同企画)

(S202)

超音波検査による腹部領域のパニック値(像) パニック像につながる所見の検討

The ultrasonographic panic and pre-panic value in abdomen

西田 睦1, 2, 重松 明男1, 3, 清水 力1

Mutsumi NISHIDA1, 2, Akio SHIGEMATSU1, 3, Chikara SHIMIZU1

1北海道大学病院検査・輸血部, 2北海道大学病院超音波センター, 3北海道大学大学院医学研究科血液内科学分野

1Division of Laboratory and Transfusion Medicine/ Diagnostic Center for Sonography, Hokkaido University Hospital, 2Diagnostic Center for Sonography, Hokkaido University Hospital, 3Department of Hematology, Hokkaido University Graduate School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
パニック値panic valueとは,「生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値で直ちに治療を開始すれば救命し得るが,その診断は臨床的な診察だけでは困難で検査によってのみ可能である」と定義付けられている.消化管疾患を除く消化器領域ではパニック像の他に,致死的な所見ではなくても,pre panic値(像)と位置づけられる所見に遭遇する.腹部領域の超音波検査において,パニック・プレパニック像(値)と考えられる所見について当施設のデータを後向に解析した.
【対象・方法】
2006年6月〜2013年12月までに腹部エコーを施行した32,081件を対象とした.装置は東芝Aplio500,XV, XG, Logiq E9,日立Aloka Avius, Philips ie22.使用プローブは3.5〜6MHz convex, 7.5,9MHz linear.検査施行者は10名の検査技師・放射線技師.特別な場合を除き原則,腹部全体のスクリーニングを施行した.検討項目は1.パニック像と考えられる症例の検索,2.担当医に電話で緊急連絡を行った症例の抽出,3.依頼側が意図せぬ悪性腫瘍を発見した症例の検討,4.造血幹細胞移植後に発症する重篤な症候群の一つとされるveno occlusive disease(VOD)のパニック値報告例の検討.2012年5月以降以下の項目の合計6点以上をVOD疑いとして報告している.肝腫大(左葉と右葉前後径)各1点,胆嚢壁肥厚(2mm以上)1点,門脈径増加(12mm以上)1点,傍臍静脈径増加(2mm以上)2点,腹水中等量以上2点,門脈本幹血流遠肝性1点,血流速低下(10cm/s以下)1点,固有肝動脈RI上昇(0.75以上)1点.
【結果と考察】
1.急性虫垂炎,卵巣出血,肝膿瘍,腹腔内膿瘍,憩室穿孔,十二指腸潰瘍,急性胃粘膜病変などが挙げられた.2.腹部領域での緊急連絡症例は15例.胆管癌術前精査でMirizzi症候群,GIST疑いでリンパ腫,盲腸癌術前精査で腸重積,膵体部癌術前精査で頭部にも別の癌を指摘,体重減少で著明な脾腫(真性多血症),心窩部違和感で閉塞性黄疸,急性虫垂炎疑いでエルシニア腸炎,HCCスクリーニングで十二指腸GIST,クレアチニン上昇傾向で腫瘍による左水腎症と尿管狭窄(MTX関連リンパ増殖性疾患),スクリーニングで膵癌,γ-GTP上昇で膵癌多発肝転移,solid pseudo neoplasm(SPN)術後再発疑い,胆管癌再発精査でイレウス,VOD score上昇2例,であった.このうち精査にて偽陽性はSPN術後再発疑いの1例であった.3依頼医が認識していない悪性所見を指摘したのは,肝癌0.02%(7件),胃癌0.01%(3件),大腸癌0.02%(5件),リンパ腫2件(0.01%),虫垂粘液嚢腫0.02%(7件),腎癌0.02%(6件),膵癌0.05%(16件),膀胱癌0.03%(8件)であった.4.造血幹細胞移植を施行したのは107例であり,そのうちVODスコア上昇を指摘したのは13例であった.
パニック像と考えられる所見は生命に関わる病態であった.電話で緊急連絡を行った症例,依頼医が認識していなかった所見,VOD score上昇はいずれもその後の治療方針に大きく影響を与えるプレパニック所見であった.これらの所見は日常よりパニック・プレパニック値(像)と考えられる所見を認識しておくことで迅速に対応できる所見と考えられた.
【結語】
腹部領域におけるUSは依頼目的に関わらず,できる限り腹部全体を観察すること,パニック・プレパニック値(像)を認識することによって,より診療に貢献する情報を迅速に臨床に提供することができると考えられた.