Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション 領域横断1 超音波検査におけるパニック値(像)(第40回日本超音波検査学会との共同企画)

(S201)

急性期診療における診断推論に基づいたUSの活用

Ultrasonography based on diagnostic reasoning in acute care settings

亀田 徹

Toru KAMEDA

安曇野赤十字病院救急部

Department of Emergency Medicine, Red Cross Society Azumino Hospital

キーワード :

超音波検査(ultrasonography,以下US)は,装置の小型化による機動性の向上と,それに伴う画質の向上や価格の低下により,救急外来や病棟で利用しやすくなった.急性期診療において診察医がベットサイドで行うUSについては,欧米を中心に臨床研究が盛んに行われ,それをもとにガイドラインの整備や教育プログラムが開発され,海外の医療現場で急速に普及してきている.急性期にベットサイドで行うUSは,検査室に移動が困難なケースは別として,限られた時間で有益な情報を引き出せることに価値が見出され,通常検査室で行われる系統的USと異なり,観察部位や項目を絞って行われることから「point-of-care US」と表現される.領域毎のルーチン項目の一部を省略してpoint-of-care USを適切に行うためには,病歴と身体所見を中心に原因を解き明かしていく認知プロセスである「診断推論」が的確でなければならない.
一方,検査室で行われる系統的なUSについては,診察医は検査目的やコメントを付けて腹部US,心臓USなど領域別のUSを依頼する.依頼を受けた検査技師は領域別USのルーチン項目をこなしながら,検査目的やコメントを参考に,特定部位について重点的に走査を行うのが通例であろう.ただし,診察医による検査目的やコメントには限界があり,またルーチンをこなすだけでは病変が特定されず,それは時に(比較的)緊急性の高い疾患の場合がある.そのようなケースは腹部USを例に挙げれば,例えば次の3つのパターンに分類されるのではないだろうか.(1)検査前に病変の存在部位がはっきりしない場合,例えば高齢者で腹痛のない初期の急性胆嚢炎や穿孔性虫垂炎など,(2)同じ領域でも普段のルーチン検査では対象にされない部位に病変がある場合,例えば上腸間膜動脈解離・血栓症をはじめとした腹部血管病変,腹直筋血腫や感染性尿膜管嚢胞をはじめとした腹壁の病変,腸腰筋血腫など腸腰筋の病変,閉鎖孔ヘルニアをはじめとした鼠径部の病変など,(3)腹部症状があっても腹部領域以外に病変がある場合,例えば,心窩部痛を呈する心筋梗塞,季肋部痛を呈する肺炎/胸膜炎などが挙げられる.このような疾患はルーチン検査中にたまたま目につくこともあるが,point-of-care USでは欠かせない「的確な診断推論」を用いて,時にルーチンを超えたアプローチをとることで,同定される可能性が高まることが期待される.
超音波検査士制度が確立し,適切な精度管理のもと,検査室から質の高いUSが提供されるようになって久しいが,「一歩進んだUS」を目指すには,ルーチンをこなすだけではなく,時に的確な診断推論に基づいて検査に臨むことが役に立つと考えられる.この発表では,急性期診療における診断推論に基づいたルーチンにとらわれないUSについて皆様と一緒に考える機会をいただきたい.