Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 甲状腺
嚢胞関連他

(S668)

穿刺吸引細胞診後の急性一過性甲状腺腫脹:症例報告

Acute transient thyroid swelling following fine needle aspiration biopsy:Case report

山田 恵子1, 戸田 和寿2, 蛯名 彩2, 元井 紀子3

Keiko YAMADA1, Kazuhisa TODA2, Aya EBINA2, Noriko MOTOI3

1がん研有明病院超音波検査部, 2がん研有明病院頭頸科, 3がん研究会研究所病理部

1Dept. of Ultrasound, The Cancer Institute Hospital of JFCR, 2Dept. of Head and Neck Surgery, The Cancer Institute Hospital of JFCR, 3Dept. of Pathology, Japan Foundation of Cancer Research

キーワード :

【背景】
甲状腺の穿刺吸引細胞診(FNA)の主な合併症は局所の疼痛と軽微な血腫であるが,その他のまれな合併症の中に急性一過性甲状腺腫脹がある.急性一過性甲状腺腫脹は原因不明の合併症で,穿刺後まもなく甲状腺全体がびまん性に腫脹し,1-20時間後に自然消退するとされている.出血斑や気道閉塞を伴わず,甲状腺周囲組織には腫脹を認めない.今までに論文で報告された症例(2013年2月の時点で約16例)の性別,年齢,随伴する疾患や使用薬剤,アレルギー歴,穿刺した甲状腺病変などに明らかな共通項はなく,穿刺手技に通常と異なる点はない.腫大した甲状腺の超音波(US)像は斑状に不均一で,甲状腺全体にひび割れ像を呈し,ドプラ法で亀裂様の低エコー部分に血流信号を認めないとされる.
【症例報告】
症例1は60歳台の女性で,甲状腺両側葉の結節のFNAを施行して約2時間後に,頸部腫脹と嚥下痛を自覚した.USで甲状腺はびまん性に腫脹し,実質エコーは不均一であった.ドプラ法でFNA後の結節の血流信号が穿刺前より減少していた.自覚症状は数時間で改善した.2日後に施行したUSでは,甲状腺腫大は改善していたが,FNA前よりは大きかった.細胞診の結果は,右葉の結節は悪性(乳頭癌),左葉の結節は正常または良性(良性病変疑い)であった.約4か月後に甲状腺全摘とD1リンパ節郭清が行われ,病理組織学的に右葉の高分化乳頭癌と両葉の腺腫様甲状腺腫であった.
症例2は70歳台の女性で,甲状腺両側葉の結節のFNAを施行して約1時間半後に,頸部腫脹と下を向いた時の軽度の違和感を自覚した.USで甲状腺はびまん性に腫大し,内部エコーは不均一で,血流信号がやや増加していた.甲状腺の前面に被膜下血腫を疑わせる低エコー層を認めた.症状は徐々に改善した.2週間後のUSで甲状腺腫大および前面の低エコー層は消失していた.FNAの結果は両側とも正常または良性(腺腫様結節疑い)であった.
症例3は40歳台の女性で,甲状腺右葉の6mm大の乳頭癌を疑いFNAを施行した.穿刺直後にUSで甲状腺右葉の前面に被膜下血腫を示唆する低エコー層が出現したため,すぐに針を抜き穿刺部を圧迫した.圧迫の後,低エコー層の増大を認めなかった.甲状腺腫脹は軽微であったが,全体にひび割れ様の線状低エコー像が出現していた.線状低エコー部には血流信号を認めなかった.自覚的にはほぼ無症状であった.再穿刺は行わなかった.5か月後のUSでは甲状腺前面の低エコー層と甲状腺内のひび割れ像は消失し,右葉の結節は不変であった.
【考察】
今まで報告された急性一過性甲状腺腫脹の超音波像と比較して,症例1と2はほぼ類似した所見を呈した.症例3は甲状腺腫脹は軽微であったが,びまん性のひび割れ様エコー像が一致した.また,3例中2例に被膜下血腫が示唆された点が,従来の報告と異なった.
急性一過性甲状腺腫脹の病因は不明であるが,急激に出現して比較的短時間で消失する浮腫様変化であることから,皮膚を引っ掻いた時に起きるヒスタミン遊離によるルイスの三重反応に類似した神経体液性変化ではないかと推測されている.今回の症例の経過からも同様に推測された.この合併症が出現した場合には,時間と共に甲状腺腫脹が自然消退するまで,USを含めた経過観察が必要と考えられた.