Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 乳腺
造影・Vascularity2

(S654)

若年女性に発症した乳腺膿瘍の1例 −造影超音波検査所見をまじえて−

Breast Abscess in a 15-year-old(young)woman: A case report with contrast-enhanced ultrasonography findings

尾羽根 範員1, 田上 展子1, 植野 珠奈1, 山片 重人2, 西村 重彦2, 妙中 直之2

Norikazu OBANE1, Nobuko TAGAMI1, Juna UENO1, Shigehito YAMAGATA2, Shigehiko NISHIMURA2, Naoyuki TAENAKA2

1住友病院診療技術部超音波技術科, 2住友病院外科

1Department of Ultrasonic examination, Sumitomo Hospital, 2Department of Surgery, Sumitomo Hospital

キーワード :

若年女性に発症した乳腺膿瘍を経験し,造影超音波検査所見をまじえて報告する.
【症例】
15歳,女性.
【主訴】
左乳房の腫脹.
【既往歴】
アトピー性皮膚炎.
【家族歴】
特記事項なし.
【現病歴】
発熱と左乳房の急な腫張を自覚して来院した.
【臨床所見】
左乳房全体の腫大がみられたが皮膚の発赤や疼痛,局所的な熱感は認めなかった.両側とも陥没乳頭がみられた.
【血液生化学検査所見】
WBC:16.5×103 /μl(Stab:1.5%,Seg:79.5%,Lympho:11.0%),RBC:4.37×106 /μl,Hb:12.9 g/dl,Ht:39.0%,PLT:285×103 /μl,CRP:1.27 mg/dl,CEA:0.8 ng/dl,CA15-3:9.3 U/ml
【超音波検査所見】
左ABE領域に直径8cm程度の腫瘤がみられた.境界明瞭で容易に変形するほど軟らかく,腫瘤内には淡いエコーを伴う液体と充実部分が混在していた.血流信号は腫瘤の辺縁部分のみで認められた.超音波画像上は膿瘍が考えられたが,臨床症状に乏しく,出血や壊死などの液体成分を伴う腫瘍性病変も否定はできなかった.腋窩リンパ節の腫脹がみられたが,反応性リンパ節腫大を疑う像であった.
<造影超音波検査所見>使用装置は日立アロカメディカル社製HI VISION Preirus,探触子はEUP-L74Mで,造影剤は推奨投与量の0.015ml/Kgを静脈内投与した.
腫瘤の壁部分のみが造影され,それ以外の部分は液体貯留部分を含め,全く造影されなかった.Time intensity curve(TIC)では早期に急速な造影効果がみられ,若干のwash outの後,なだらかに染影が持続した.
【造影MRI検査所見】
左乳房内側域のほとんどを占拠する腫瘤がみられた.腫瘤辺縁はT1WIで乳腺より高信号を呈し不均等な厚さの濃染域としてみられ,内部は比較的均一で造影されなかった.Time-Intensityの解析では,漸増パターンを呈した部分や,濃染からplateauとなった部分,濃染からwash outした部分など一定しなかった.膿瘍や内部に壊死を伴う腫瘍が考えられた.
【穿刺吸引細胞診所見】
膿汁様の赤褐色の内容液が採取された.多数の好中球と細菌のみで異型細胞は認めなかった.また,採取された内溶液の細菌培養検査では黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出された.
【経過】
以上より,乳腺膿瘍との診断で切開排膿ドレナージを行った.膿瘍壁を切開したところ黄褐色の膿汁が多量に流出した.洗浄後,膿瘍壁の一部を切除し組織学的検索を行った.
【病理組織学的検査所見】
成熟した線維組織が形成されて乳腺の腺管は萎縮していた.拡張した乳管の中には壊死組織,炎症細胞浸潤が認められ,膿瘍として矛盾のない像であった.
【術後・超音波検査所見】
ドレナージ後で,AC領域に無エコーの液体を少量認めるのみとなっていた.腫瘍性病変を疑うような充実エコーは認めなかった.
<造影超音波検査所見>術前のTICとは異なり,緩徐に造影された後,染影が持続しwash outは不明瞭となった.
【術後経過】
良好に経過し退院.4ヶ月後の超音波検査では液体貯留や乳腺の腫脹は消失し,左右差は認めなかった.
【まとめ】
陥没乳頭もあり画像的に膿瘍が考えられたが,臨床症状に乏しく腫瘍性病変の存在を否定できなかった.急性期では急速に造影されるなど悪性腫瘍を思わせるような所見が得られたが,ドレナージ後にはやや緩徐でwash outが不明瞭な染影へと変化がみられた.炎症性の変化と腫瘍性の変化は血行動態が似ているといわれるが,造影超音波検査でもそれを示唆する所見であったと考えられた.