Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 産婦人科
婦人科疾患

(S631)

卵巣子宮内膜症性嚢胞の脱落膜変化と悪性化とは鑑別可能か?

Decidualized ovarian endometriotic cyst and malignant transformation is it possible to differentiate ?

松本 泰弘, 梅澤 幸一, 鎌田 英男, 木戸 浩一郎, 梁 栄治, 綾部 琢哉

Yasuhiro MATSUMOTO, Kouichi UMEZAWA, Hideo KAMATA, Kouichirou KIDO, Eiji RYO, Takuya AYABE

帝京大学医学部附属病院産婦人科

Department of obstetrics and gynecology, Teikyo university hospital

キーワード :

【はじめに】
近年の生殖医療補助技術の向上に伴い,卵巣子宮内膜症性嚢胞合併妊娠の頻度も増加傾向にある.しかし,卵巣子宮内膜症性嚢胞は妊娠によるプロゲステロン分泌の影響で脱落膜化をきたし嚢胞内に充実性部分が出現するために,しばしば悪性化との鑑別が困難になる.そのため,妊娠中に付属器切除等の手術療法が選択され,結果的には脱落膜化であったという報告が散見される.今回,我々は超音波所見およびMRI所見から卵巣子宮内膜症性嚢胞脱落膜変化と判断し,充分なインフォームドコンセントのうえで経過観察し得た2症例を経験した.この2症例と文献的考察から,脱落膜化と悪性化との鑑別が可能かどうか検討した.
【症例1】
31歳,未経妊婦.以前から,他院にて4cm大の右卵巣子宮内膜症性嚢胞を経過観察されていたところ自然妊娠に至った.妊娠10週で,分娩目的に当院を紹介初診された.初診時,超音波検査にて右卵巣子宮内膜症性嚢胞内に充実性部分を認め,妊娠13週には充実性部分が著明な増大傾向を示した.妊娠16週では充実性部分の辺縁に豊富な血流を認めた.内膜症性嚢胞の悪性化も疑われたが,脱落膜化も考慮しMRIによる鑑別を試みた.充実性部分のMRI所見は,T1強調画像で低信号,T2強調画像で著明な高信号を呈し,拡散強調画像で低信号,ADC mapは高値を示した.これらの所見から,充実性部分が悪性腫瘍である可能性は低いと考え,充分なインフォームドコンセントのもとで経過観察としたところ,妊娠20週には縮小傾向となった.引き続き経過観察中である.
【症例2】
27歳,未経妊婦.以前から,当院で5cm大の右卵巣子宮内膜症性嚢胞を経過観察していたところ自然妊娠に至った.引き続き妊娠管理を行っていたところ,妊娠12週で超音波検査上,嚢胞内に充実性部分が出現した.妊娠16週には充実性部分が著明に増大しており,辺縁に豊富な血流を認めた.妊娠17週にMRIを施行したところ,充実性部分はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号であり,充実性部分が悪性腫瘍である可能性は低いと考えられた.症例1と同様に経過観察中であるが,その後,増大傾向を認めていない.
【考察】
既知の卵巣子宮内膜症性嚢胞に,妊娠成立後に充実性部分が出現した例においては,悪性化と脱落膜化の両方を念頭におく必要がある.超音波検査上,充実性部分が短期間で多発広基性に増大し辺縁により多くの血流を認める例では,脱落膜化の可能性が高いと考えられる.このような例では,MRIを併用し充実性部分の信号パターンを解析することが,脱落膜化と悪性化とを鑑別するうえで有用である可能性があり,症例の蓄積により信頼度が増せば,妊娠中の不要な侵襲を避けられると考えられた.