金西 賢治¹, 新田 絵美子¹, 真嶋 允人¹, 花岡 有為子¹, 小谷野 耕祐², 田中 宏和¹, 秦 利之¹

Kenji KANENISHI¹, Emiko NITTA¹, Masato MASHIMA¹, Uiko HANAOKA¹, Kohsuke KOYANO², Hirokazu TANAKA¹, Toshiyuki HATA¹

¹香川大学医学部母子科学講座周産期学婦人科学, ²香川大学医学部小児科学

¹Department of Perinatology and Gynecology, Kagawa University School of Medicine, ²Department of Pediatrics, Kagawa University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
臍帯における静脈瘤は臍帯静脈の著明な拡張を呈する病態で，臍帯静脈を形成する血管壁の内因的な脆弱部が拡張し，静脈瘤に発展するものと考えられている．臍帯静脈の静脈瘤には胎児の腹腔内で形成されるものと（intra-abdominal），羊水腔内の臍帯（intra-amniotic）に認められるものがある．今回我々は，2D超音波，パワードプラ，3DHD−flowおよびHDliveを用い，出生前に診断し得た，羊水腔内の臍帯静脈静脈瘤（umbilical vein varix; UVV）症例を経験したので報告する．
【症例報告】
34歳，女性，2経妊1経産．近医にて妊婦健診を受けており，妊娠35週で臍帯異常所見にて当院紹介となった．当院の2D超音波所見では最大径25.5mmの静脈瘤を含む拡張した臍帯に大きな血栓を認めた．また，パワードプラ，3DHD-flowを用いて静脈流内で双方向に血流が乱流している様子を明瞭に描出することができた．HDliveでは，静脈瘤内の脆く大きな血栓の存在を示すことができた．血栓による臍帯静脈の梗塞などの合併症を考慮し，胎児発育が正常でその他大きな異常所見を認めていないことから，帝王切開による分娩方針となった．帝王切開により，2501gの女児を分娩した．新生児はApgar score 8/9（1分/5分），臍帯動脈UApH 7.334であった．臍帯静脈には肉眼的にも組織学的にも血栓形成が認められた．新生児の血液検査では消費性凝固障害が認められたが（血小板88,000/mm3; PTT 155.7s; fibrinogen 69mg/dl;血清FDP 17.6μg/ml），対症的な補充療法のみで，その後の経過は問題を認めなかった．
【考察】
intra-amniotic UVVは静脈瘤内での頻回の血栓形成，死産，胎児奇形および消費性凝固障害などの要因となるとの報告があり，帝王切開が選択されることが多い．また，これまでの報告ではintra-amniotic UVVの約半数は出性前診断することができず，出生前に診断できたintra-amniotic UVVの報告は5症例で，すべて2D超音波（カラードプラを併用あるいは併用なしで）を用いて診断されている．5症例中4例で，静脈瘤内の血栓について述べられているが，実際に診断されているのは1例のみである1-5）．
HDliveによる正常や異常胎児の画像の報告はこれまでにも多く認められ，従来の3D超音波画像よりも，より認識し易い画像を得ることが可能である．今回の症例でも静脈瘤内の脆く大きな血栓がHDliveの画像で明瞭に描出されており，出生後のUVVの縦切開による血栓の肉眼所見は，HDliveで得られた所見とほぼ同様であった．2D超音波，パワードプラ，3DHD−flowおよびHDliveを用いた出生前診断により，胎児予後が良好であった羊水腔内のUVV症例を経験したので報告した．