Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 消化器
その他2

(S609)

末梢動脈の逆流を認めた上腸間膜動脈解離の一例

A Case of Superior Mesentric Artery Dissection with peripheral artery backflow

高田 珠子1, 3, 畠 二郎1, 中藤 流以2, 飯田 あい1, 神崎 智子2, 河合 良介1, 今村 祐志1, 眞部 紀明1, 楠 裕明1, 春間 賢2

Tamako TAKATA1, 3, Jiro HATA1, Rui NAKATOU2, Ai IIDA1, Tomoko KANZAKI2, Ryousuke KAWAI1, Hiroshi IMAMURA1, Noriaki MANABE1, Hiroaki KUSUNOKI1, Ken HARUMA2

1川崎医科大学検査診断学, 2川崎医科大学消化管内科学, 3三菱三原病院内科

1Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 2Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School, 3Department of Internal Medicine, Mitsubishi Mihara Hospital

キーワード :

【はじめに】
孤立性上腸間膜動脈解離は比較的まれな疾患であるが,近年画像診断の発達により報告例が増えている.Intimal flapを認める場合診断は比較的容易であるが,偽腔が血栓閉塞してintimal flapが不明瞭となり,一見動脈硬化様に描出された場合は上腸間膜動脈血栓症との鑑別が困難となることがある.また治療について,腸管虚血や偽腔の破裂がない場合は保存的治療が選択されるが,抗凝固・抗血小板療法の適応についてはいまだ定まっておらず,真腔の血流が保たれていれば必要ないとする報告もある.今回体外式超音波検査(以下US)が診断及び分枝血管への側副血行路の存在評価に有用であった症例を経験したので報告する.
【症例】
59歳 男性
【主訴】
下腹部痛,血性下痢
【現病歴】
201X年会議中に持続性下腹部痛が出現し,その後血性下痢も認めたため同日当院受診,入院となった.
【既往歴】
胆石(無治療)
【嗜好歴】
喫煙15本×39年 機会飲酒
【現症】
血圧147/87mmHg,脈拍102回/分,体温36.2℃ 結膜に貧血・黄疸なし.
   腹部は平坦・軟,臍部に圧痛あり,反跳痛なし.腸蠕動音は経度低下.
【血液生化学所見】
WBC11820/uL, LDH267u/Lと軽度上昇以外に異常所見はなかった.
【経過】
入院時腹部造影CTでは上腸間膜動脈内(以下SMA)に血栓を認め,SMA血栓症あるいは偽腔が血栓閉塞したSMA解離が疑われた.真腔の完全閉塞の所見はなく腸管の血流が保たれていたため絶飲食,ヘパリン,PGE1による保存的治療を開始,腹痛・血便は速やかに改善,第4病日よりバイアスピリンを開始した.第9病日に施行したUSでは,SMAは数cmの範囲でほぼ均一な壁の低エコー域によって内腔は狭小化しているが,内腔面は比較的平滑で,腹腔動脈や大動脈にはプラークを認めないことより,偽腔が血栓閉塞したSMA解離と診断した.回腸枝分枝部においてSMAの内腔は1mm前後と著明に狭小化し,分枝の血流は逆方向に流れていることから,分枝領域は近傍の動脈からの側副血行路により還流されているものと思われた.第10病日にヘパリン・バイアスピリンとも中止し,症状の再燃やCT所見の変化はなく,第17病日退院となった.
【考察】
本症例では偽腔血栓閉塞のためintimal flapが不明瞭で,CTにてSMA血栓症とSMA解離との鑑別が困難であった.SMA血栓症は動脈硬化を背景としているため,腹腔動脈や大動脈にも硬化性変化を認めることが多いのに対し,SMA解離は高血圧,喫煙が危険因子とされ,その成因に動脈硬化,線維筋性異型性,中膜分節状壊死,膵下面でのSMA壁の物理的ストレスなど挙げられるも詳細は不明とされ,必ずしも動脈硬化は強くなく,SMAにのみ変化を認める場合には,SMA解離を疑う根拠の一つになると考えられた.またSMA解離の治療の選択において腸管の虚血の有無の評価が重要である.本症例ではSMA内腔が著明に狭小化していたが,その分枝動脈に逆流を認めたことから側副血行の存在を疑うことができた.USはリアルタイムに血流の方向を観察することが可能であり,病態の把握に有用であった.