八幡 浩信

Hironobu HACHIMAN

沖縄県立中部病院外科

Surgical department, Okinawa Chubu Hospital

キーワード :

【患者】
23歳，女性
【主訴】
会陰外傷
【既往歴・家族歴】
特記事項なし
【現病歴】
水着着用しバイク後席乗車中，速度に耐えられずに後ろへ転落し海上に着水，会陰外傷にて当院救急室受診した．
【初診時現症】
意識清明，血圧100/70mmHg，脈拍72/min，呼吸数20/min，体温36.8，身体所見として左下腹部に腹膜刺激症状を認め，腹膜炎および肛門周囲裂創の診断にて緊急手術となった．
【治療経過】
開腹所見では，左後腹膜穿通創と直腸Ra部漿膜裂創を認めた．手術は，後腹膜穿通創と直腸Ra漿膜裂創の縫合閉鎖およびS状結腸人工肛門造設術を施行，会陰部では複数箇所の直腸全層裂創を認めたため，内肛門括約筋・外肛門括約筋の可及的修復術を施行した．
術後経過は良好で，術後17日目に退院となった．
受傷11日目の直腸肛門超音波検査では，内肛門括約筋・外肛門括約筋とも前方1/4周程度にわたり同定出来ず，広範囲の損傷が疑われた．また，随意収縮も確認できなかった．
直腸肛門内圧検査では，最大静止圧23mmHg，最大随意収縮圧24.5mmHgと括約筋収縮能は著しく低下していた．
その後，徐々にではあるが，随意収縮能の回復が確認され，受傷4ヶ月目の直腸肛門超音波検査では内肛門括約筋・外肛門括約筋断裂は2時方向のみであり，全体的な随意収縮も確認できた．
当初は，括約筋不全に対する外科的修復術も検討されたが，直腸肛門超音波検査にて良好な回復を認めたことから，骨盤底筋体操とバイオフィードバックによる保存的治療を行いつつ慎重に経過をみる方針とした．
【考察】
括約筋損傷の評価における直腸肛門超音波検査は，損傷の範囲と同時に収縮機能を評価することが可能であり，治療方針の決定に有用であった．
受傷初期においては，創痛・浮腫・挫滅の影響を除外できず，繰り返し評価することが重要であると考えられた．