Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 消化器
血流診断2

(S584)

門脈血流障害に伴う代償性変化(3):CTPV非形成例について

Compensation for Portal Flow Disturbance(3):non-cavernous portal-portal shunting via thickened bile duct wall

紺野 啓, 宮本 恭子, 宮本 倫聡, 鯉渕 晴美, 谷口 信行

Kei KONNO, Kyoko MIYAMOTO, Michiaki MIYAMOTO, Harumi KOIBUCHI, Nobuyuki TANIGUCHI

自治医科大学臨床検査医学

Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University School of Medicine

キーワード :

【目的】
我々はこれまで,cavernous transformation of the portal vein(CTPV)例,肝葉萎縮例や腫瘤様病変形成例など,門脈血流障害とその代償性変化について検討,報告してきた.今回は,CTPVの発達を伴わない門脈閉塞例を複数経験し,それらよりCTPVの形成機序について示唆に富む非常に興味深い知見が得られたため報告する.
【対象と方法】
対象は2006年1月から2013年12月までの期間に自治医科大学臨床検査部超音波検査室にて超音波検査(US)を施行した症例のうち,USにて門脈本幹および肝内門脈に広範な閉塞を認めた8例.これらの症例について1)門脈閉塞の原因,2)門脈閉塞の範囲・様態,3)CTPVを含む代償性門脈-門脈短絡の発達の有無とその様態,4)その他の血行動態異常を含めた異常所見を検討した.
【結果】
1.CTPVの発達を認めたもの(CTPV形成例)は5例(AT-III欠乏症1例,胆嚢胆管結石症1例,原因不明3例),CTPVの発達を認めなかったもの(CTPV非形成例)は3例(真性多血症+血小板増多症+骨髄異形成症候群1例,骨髄線維症+protein S欠乏症1例,原因不明1例)であった.
2.CTPV形成例5例中4例では門脈血流障害部全体にCTPVの発達を認めたが,AT-III欠乏症例(1例)では門脈血流障害部の一部にCTPVの発達を認めない,門脈血流障害の非代償部を認めた.これらの症例では肝内門脈血流は血流障害の非代償部も含めて全て求肝性であった.
3.CTPV非形成例(3例)では全例で,肝門部の胆管壁に肥厚を認め,肥厚した壁内にCTPVとは形態の異なる,きわめて細い血管からなる側副血行路を認めた.肝内では肝門部以外に肝内に側副血行路を認めず,門脈血流は著明に低下していた.肝門部における胆管壁の肥厚の程度,肥厚した壁内の血管の数・量は症例により大きく異なっていた.
4.CTPV非形成例(3例)では全例,門脈-体循環短絡の発達が顕著で,高度の門脈圧亢進症を伴うものと考えられた.
5.CTPV非形成例のうち凝固異常を伴う2例では,腹部以外にも血行障害を複数伴うことから(頸動脈閉塞,脳梗塞など)血栓傾向は明らかであり,肝内における病変の広がりとあわせ,肝末梢まで血栓形成が及んでいると考えられた.
6.CTPV非形成例のうち原因不明例(1例)では,肝外に加え肝内にもまれな門脈-体循環シャントが観察されており,門脈閉塞時の変化が多彩で広範であったことが伺われた.
【考察】
今回の検討では,CTPV非形成例では全例で肝門部の総胆管壁に肥厚を認め,肥厚した壁内にCTPVとは形態の異なる,きわめて細い血管からなる側副血行路を認めた.検討数はまだ少ないが,こうした形態は,門脈閉塞後,何らかの理由でCTPVが形成されない症例における,門脈-門脈シャントの特徴的所見である可能性が高い.CTPVの発生母地は末梢胆管周囲のperibiliary capillary plexusとされるが,CTPV非形成例にみられた側副血行路も形態・分布から考えてこれらと同様の組織を発生母地として形成されたものと考えられる.一方,これらの症例では,シャントを形成する個々の血管がCTPVほどには発達せず,存在する範囲も肝門部を中心とした胆管壁内という極めて狭い領域に限られるなどの点では,CTPVとの違いが際立っており興味深い.今回の検討では,これらの症例では門脈閉塞時,肝内の広い範囲で門脈系の末梢にまで血流障害が及んでいたことが推測されることから,末梢のperibiliary capillary plexusレベルの血流障害の有無が,CTPV形成・非形成の違いを生じている可能性がある.今後は症例の蓄積を待ち,組織学的検討なども加えながら検討を続けたい.