Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 循環器
症例報告・その他1

(S517)

大動脈弁に付着した多発乳頭状線維弾性腫が安静時胸痛の原因として考えられた一例

Multiple Papillary Fibroelastomas of the Aortic Valve Caused Chest Pain at Rest

反町 秀美1, 黒沢 幸嗣2, 庭前 野菊1, 丹下 正一1, 林 弘樹3, 石川 和徳3, 森 秀暁3, 伊藤 秀明4, 倉林 正彦2

Hidemi SORIMACHI1, Kouji KUROSAWA2, Nogiku NIWAMAE1, Shoichi TANGE1, Hiroki HAYASHI3, Kazunori ISHIKAWA3, Hideaki MORI3, Hideaki ITOU4, Masahiko KURABAYASHI2

1前橋赤十字病院心臓血管内科, 2群馬大学医学部附属病院循環器内科, 3前橋赤十字病院心臓血管外科, 4前橋赤十字病院病理部

1Cardiovascular Medicine, Maebashi Red Cross Hospital, 2Cardiovascular Medicine, Gunma University Hospital, 3cardiovascular Surgery, Maebashi Red Cross Hospital, 4Pathorogical Department, Maebashi Red Cross Hospital

キーワード :

【症例】
71歳男性
【主訴】
安静時胸痛
【現病歴】
15年前に安静時胸痛が出現したが,2-3時間で改善したため医療機関を受診しなかった.その後は年に1-2回の安静時胸痛が出現していたが,1ヶ月ほど前より週5-6回の胸部圧迫感のある安静時胸痛に増悪したため,精査のために入院した.
【入院後経過】
経胸壁心エコー図検査で,大動脈左冠尖に付着する可動性に富む高輝度エコーを呈する異常付着物(8×6mm)を認めた.経食道心エコー図検査(TEE: transesophageal echocardiography)で,左冠尖弁尖に非常に可動性に富む高輝度エコーの腫瘤(9×6mm)を認めた(図:腫瘍1).また右冠尖弁尖にも3mm程度のひも状エコーを認めた(図:腫瘍2).左右冠尖に付着する高輝度エコーの腫瘤は,性状から乳頭状線維弾性腫が疑われた.その他の弁や心内には異常な付着物を認めなかった.3次元TEEでは,腫瘤は収縮期には左冠動脈主幹部入口部横のValsalva洞壁を叩くように可動していた.このため左冠動脈塞栓のリスクもあり手術適応と判断し,乳頭状線維弾性腫疑いに対し腫瘤摘出術を施行する方針とした.
【手術・病理所見】
大動脈を切開し大動脈弁を観察したところ左冠尖辺縁中央からやや右冠尖寄りに短い茎をもつ直径10mm程度のやわらかくイソギンチャク様の腫瘍を認めた.また右冠尖の弁辺縁に3mmの同様の腫瘍を認め,術前の3次元TEEの所見と一致した.腫瘍切除を行い,術中TEEで明らかな大動脈弁逆流を認めず,自己弁の温存に成功した.
左右冠尖より摘出した腫瘤は,細い線維化組織の乳頭状,放射状増生からなる病変が認められ,表面は一層の内皮細胞で被われていた.Elastica van Gieson染色では線維化組織の中心に軸状の弾性繊維の増生があり,乳頭線維弾性腫に一致する所見であった.頻回に認めていた安静時胸痛は,術後消失した.
【考察】
乳頭状線維弾性腫は粘液腫に次いで多くみられる良性原発性腫瘍である.多くは無症候性で偶発的に発見されることが多いが,一過性脳虚血発作,脳梗塞,狭心症,心筋梗塞,心不全の症状を伴うことがある.冠動脈弁口の閉鎖で突然死をきたすという報告もある.本症例は3次元TEEで収縮期に可動性に富む腫瘤が左冠動脈主幹部に近づく所見があったことから冠動脈閉塞を引き起こすリスクが高いと考えられた.3次元TEEが診断・治療方針決定に有用であった大動脈弁多発性乳頭状繊維弾性腫の一例を経験したので報告する.